日本車が欧米のクルマに追いつけ追い越せので世界中のクルマ界を席巻してきた一方、どうしても乗り越えることができない壁もまた存在してきた。その逆に欧米のクルマにも、どうしても切り崩せない日本車の壁というものが存在する。ここでは欧米車がその壁を崩せているのかどうかを検証する(本稿は「ベストカー」2013年5月26日号に掲載した記事の再録版となります)。
文:片岡英明、国沢光宏、鈴木直也、渡辺陽一郎
■ハイブリッドの壁
トヨタ、ホンダが世界のハイブリッドを牽引してきたことに異論はないハズ。現状でもハイブリッドにおいてアドバンテージは絶大なのか?(文:国沢光宏)
●トヨタ プリウス vs VW ジェッタハイブリッド
アメリカで発売されたジェッタHVに試乗してみた。結論から書けば「14年間あったプリウスのアドバンテージ、半分になりましたね!」という感じ。
今まで数多くのハイブリッド車が出てきているけれど、プリウスに迫るモデルは皆無だった。もう少し詳しく書けばトヨタ方式と非常に似ているフォードのハイブリッド(基本コンポーネンツはアイシン製)のみ背後に迫りつつあるけれど、それ以外は遠く及ばず。欧米だけでなく、日本の自動車メーカーだってプリウスの壁を越えられていない。
いや、トヨタですら車重が圧倒的に軽いアクアを持ってしても、実用燃費でプリウスと大差なし。飛び抜けて凄い。それくらいプリウスの壁は高いのだった。この壁、VWを持ってしても越えられないだろうか?
燃費という観点からすれば「難しい」と思う。なぜか? やはり『THSII』というトヨタのハイブリッドシステムがすばらしいからだ。
THSIIの面白さは「徹底的に熱効率を追求したエンジンを使える」という点にある。プリウス用エンジンの熱効率は38%程度らしい。
こらもうディーゼルエンジンを凌ぐほど。VWご自慢の小排気量過給エンジンですら届かないのだった。ここまで熱効率のいいエンジンを組み合わせられるハイブリッドシステムは、THSIIと、ホンダがアコードでデビューさせてくる2モーター式のみ。
●壁は越えられたのか?
ジェッタハイブリッドが燃費でプリウスに勝つことは難しいと思う。ただ走りの楽しさなど、燃費以外の評価項目を重視する人からすれば、乗り心地が悪いプリウスよりジェッタハイブリッドのほうが魅力的に映ることだろう。総合評価で壁を越えられる日は近いと思う。
●越えられたか度:60点
●トヨタ クラウンハイブリッド vs BMW アクティブハイブリッド3
この2車、そもそもハイブリッドを採用した目的が違う。BMWに限らず、ヨーロッパ勢のプレミアム級のモデルのハイブリッドはガソリンエンジンで厳しい燃費規制をクリアするために仕方なくハイブリッドを採用している。
本来ならハイブリッドなんか作りたくないが、高性能ガソリン車じゃ規制をクリアできない。まぁ「ハイブリッド代」は税金やペナルティみたいなモノだと割り切っているワケです。したがって絶対的な燃費を見ると、決してホメられた数値ではない。JC08で13.6km/hですからね。
搭載されているエンジンだって3Lツインターボの306psときた。最初から燃費を追求する気などなし。こらもうBMWに限らず、ベンツやポルシェも同じ。高性能車の生き残り作戦なのだった。
いっぽう、クラウンのハイブリッドは徹底的に燃費を追求している。というのも速さを追求した先代のクラウンハイブリッドが超不振だったからだ。なぜか? 燃費のよさで浮くぶんのガソリン代だと、車両価格が高いぶんをペイできないからだ。環境投資にボランティアは期待できない。
ということで欧州勢を見ると最初からクラウンの壁を越えようと思っておらず。というか欧州市場だとクラウン級の高額車で最高速200km/hなんてありえない。高額車=高性能車なのだ。
クラウンハイブリッドに相当する「環境対応車」はディーゼルであります。クラウンハイブリッドに相応する520dの欧州仕様の最高速は231km/h。私なら0.5秒も迷わず520dを選ぶ。むしろトヨタが欧州勢の壁であるディーゼルを越えられないかもしれない。クラウンハイブリッドって“井の中の蛙”です。
●壁は越えられたのか?
日本市場におけるクラウンハイブリッドは、ライバルが欧州勢のハイブリッドであるなら盤石だと思う。ただ日産あたりが次期型スカイラインのディーゼル(エンジンはベンツ製)を出してきたら、イッキに形勢は逆転することだろう。ディーゼルなら燃料コストでイーブン。絶対的な動力性能も圧倒的かと。
したがってクラウンハイブリッドの壁は、真正面から越えられない高さを持っているかもしれないが、横から簡単に入られちゃうモロさを持つ。
●越えられたか度:20点
■EVの壁
ある意味ハイブリッド以上に日本、いや正確には日産と三菱が世界をリードしているが、欧州勢との差は開いたのか? それとも縮まっているのか?(文:国沢光宏)
●日産 リーフ vs VWゴルフ EV
リーフとゴルフEVを乗り比べると、ハード的な仕上がり具合はイーブンである。むしろゴルフEVのほうが凝ったシステムの協調ブレーキを持っていたり、アクセルオフ時に電費が伸ばせるコースティングモード(電車のような滑走状態になる)を選べるなど、電気自動車のツボも押さえてます。
ちなみにコースティングモードはアウトランダーPHEVやフィットEVも採用しており、日本勢というより単にリーフの開発担当者の考え方が古いんだと思う。いずれにしろ機能面で評価したなら、リーフとゴルフEVは引き分け。
ただリーフとゴルフEVの間に壁がないかとなれば、そんなことない。さすがのVWといえども、ゴルフEVに関しちゃホンキ度薄いように思う。少なくともゴルフEVを、リーフのように大量生産する計画を持っておらず。大量生産しなければコストだって安くならない。
そもそも片手間じゃ電気自動車は売れないです。当然ながら価格競争力でリーフに勝てないだろう。リーフの真の凄さって、真剣に年産20万台規模を考えていることだ。デザイン次第で大化けするハズ。
加えてリーフのアドバンテージは案外大きい。細かいトコロでいえば、リーフが採用している充電場所のインフォメーションはほかの電気自動車を圧倒している。モーターの振動に相当する「コギング」(発進時に感じる微振動)だって圧倒的に少ない。
電気自動車のノウハウ持つアウトランダーPHEVやフィットEVなどと比べても優秀。次期型リーフが出てくると、完全にライバルメーカーを周回遅れにするくらいの技術的な蓄積がある。VWも真剣にリーフと戦う気にならない限り、越えられない壁があることだろう。
●壁は越えられたか?
リーフは全力で明日に向かい走っている。VWを見るとスタート前の準備運動をしている状況。時間がたてばたつほどリーフは先に行ってしまう。
電池だってリーフのほうが技術的な蓄積を進行中。皆さん考えているよりリーフって凄い。魅力的なクルマ作りさえできれば、イッキに伸びると思う。
●越えられたか度:80点
■PHEV(プラグインハイブリッド)の壁
通常時はEVとして使え、航続距離を伸ばすためにエンジンを使用する、というある意味現状で考え得る最強の燃費性能を誇ると評判になっているのがプラグインハイブリッド。日本では三菱アウトランダーPHEVの登場により本当の意味でのプラグイン時代に突入した。世界との差やいかに!(文:国沢光宏)
●三菱 アウトランダーPHEV vs シボレー ボルト
アウトランダーPHEVとシボレーボルトはまったく同じコンセプトのPHVである。プリウスPHVやアコードPHVなどと違い、電池をタップリ積む。日常の使い方であれば電気自動車と言って差し支えないほど。そしてロングドライブする時のみハイブリッドモードとなり、航続距離の心配をしなくてすむといった具合。
ただ技術的なアプローチはまったく違っていた。アウトランダーPHEVのほうが生産コストという点で有利だと考えます。それぞれの構造を比べてみると興味深い。
ボルトはプリウスのような動力配分装置を使う。大量に電池を搭載したプリウスPHVをイメージしてもらえばいいだろう。片やアウトランダーPHEVのシステムはシンプル。ミッションばかりか、動力伝達装置すらなし。効率や部品点数からすれば大幅にアウトランダーPHEV方式のほうが少ない。
メカニズムの優劣は最終的に「簡単であり、効率いい」ことをもって上位になります。参考までに書いておくと、アコードPHVもすばらしいコストパフォーマンスを持つという。ボルトより1ステップ有利かと。
ただGMだってアウトランダーPHEVと同じシステムを採用しようとすれば容易。というかボルトのシステムよりずっとシンプルだ。問題は今まで投資したコストを諦められるかどうか、という点にかかっている。こいつこそ「壁」だと思う。
すでにボルトのシステムをそのまんま使ったキャデラックの開発も進めており、どうやらしばらく使う模様。その間、アウトランダーPHEVやアコードPHVの優位性はずっと続く。いったん投資したコストを諦めるというハードル、けっこう高いのだった。
●壁は越えられたのか?
アウトランダーPHEVの2モーター駆動システム、新しい世代のハイブリッドのスタンダードになると考える。GMが次世代のシステムをいつ投入してくるか、という点が興味深い。逆にトットと現在のシステムを捨て、新世代に切り替えたら、あっという間に壁は乗り越えられてしまうだろう。
●越えられたか度:90点
■4WDの壁
4WD王国日本。これほどまで4WDがいろいろなクルマに設定されている国はない。4WDでは欧米を圧倒する存在であり続けているのか?(文:片岡英明)
●スバル レガシィTW vs アウディ A4アバント
スバルもアウディも古くから4WDの優位性に着目し、魅力的な4WDモデルとワゴンを数多く輩出してきた。スバルは1960年代からパートタイム4WDの開発に乗り出し、1980年代にはフルタイム4WDを積極的に市場に送り込んでいる。アウディも同様だ。フルタイム4WDのクワトロをいち早く投入した。
両社はラリーを中心としたモータースポーツで4WD技術を切磋琢磨。ワゴンの分野で4WD化に先鞭をつけたのはスバル。水平対向エンジンをコアテクノロジーに、シンメトリカルAWDをワゴンに採用し、安全かつ楽しい走りを実現。同じことをアウディも考え、クワトロシステム採用のワゴンを発売する。
メカニズムの先進性ではアウディが一歩リードしていると思われているが、スバルも負けてはいない。
アルシオーネSVXには電子制御によって前後輪の可変トルク配分を行なう世界初の4WDメカ、ACT-4を採用。またレオーネの時代からハイトコントロールを採用し、3代目ではエレクトロニューマチックサスも実用化している。4WDにターボなどの過給機を組み合わせるのも早かった。
アウディはスバルの後追いだが、21世紀になって積極的に過給機を使うようになっている。4WDのメリットを充分に活かせるようになっただけでなく、ディーゼルターボも持っているから環境性能も一級だ。
スバルはターボをパワー方向に利用し、ミッションもトルコン付きATから電子制御無段変速機のCVTへとシフトした。これに対しアウディはエコ方向に過給機を使い、ミッションもツインクラッチのSトロニックを主役の座に据えている。
4WDのパッケージングに関してはスバルが大きくリードし、キャビンだけでなくラゲッジは広く、使い勝手がいい。アウディは一時期、広さにこだわったが、今は割り切った。これは課題のひとつといえるだろう。
●壁は越えられたのか?
スバルはWRC参戦中にアウディを引き離した。4WDシステムを意欲的に開発し、これを量産車へとフィードバック。が、WRCから撤退すると開発ペースが鈍り、その隙にアウディが一気に差を縮め、ついにはトータルの商品性でレガシィやフォレスターを抜き去っている。
特に後れをとったのが電子制御の分野。最初はスバルがリードしていたが、いつの間にか前に出られている。ただし、その差はわずかだ。また、スバルには4WDに最適なクロスオーバーカーのノウハウが充分にある。この分野ではアウディの先をいっている。高い壁を乗り越えるスバルの発奮に期待したい。
●越えられたか度:90点
■快適装備は日本車
電動格納式ドアミラーなどは、日本車が先行して普及。便利な機能とわかり、海外メーカーも採用を開始した。安全性を高めるバックモニターも同様。今は海外のクルマもウィンドウの下端が高まって視界が悪く、SUVも増えたからバックモニターを備える。
越えられないのは収納やシートアレンジ。日本車は豊富だが、欧米は壁を越えられない。
理由は2つある。まずは日本車ほどニーズがないこと。2つ目は安全対応。上に置いたモノが不安定になるトレイ、事故の際に荷物が乗員に加害性を持つ心配の伴うシートアレンジなどは採用されていない。
●越えられたか度:67点(文:渡辺陽一郎)
■欧米車はハイテク装備が少ない
カーナビなどのハイテク、特に衝突回避の支援機能は、日本車が海外メーカーに先んじた分野。今でも価格の安さでは日本車が有利だが、海外の追い上げも激しい。ボルボはミリ波レーダー/赤外線レーザー/カメラを装着して、車両後方の対応も行なう。
技術の優劣ではなく、考え方の違いが明確になったのが興味深い。日本車は衝突不可避時に緊急ブレーキを作動。対象物との速度差に応じて事故を未然に防ぐ完全停止を求めるが、メルセデスやBMWは警報や軽い制動にとどめ、本格的な回避操作はドライバーに委ねる。ボルボには完全停止の機能がある。
●越えられたか度:88点(文:渡辺陽一郎)
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【番外コラム01】燃費対決
日本のJC08モード燃費と欧州複合燃費(ACEA)の燃費対決! 欧州複合燃費は、市街地モード、高速走行モードを組み合わせたもので、実燃費に近いといわれるが、車種によって欧州複合燃費のほうが、燃費がいい場合がある。
まず、フィアットとポロの対決はJC08モード燃費、欧州複合燃費ともにポロの勝ち。JC08モード燃費はわずか0.2km/Lの差だったのが、欧州複合燃費での差が1.5km/Lと大きく開いた。
注目のアテンザ2.2DとBMW320dの勝負はJC08モードではアテンザのほうが0.6km/L上回っているが、欧州複合燃費では逆に1.9km/Lの差を付けられてしまった。
【番外コラム02】CVT&DCT
ガソリン、ディーゼルを問わず、内燃機関は効率のいい運転領域が狭い。パフォーマンスの面からは最大トルク付近から最高出力回転あたりを常に使いたいし、燃費の面からは熱効率に優れた領域(通称燃費の目玉)をキープするのが得策。そのためには優れたトランスミッションが必要になる。
で、狙ったゾーンを有効に使おうとすればするほど、ミッションへの要求は厳しくなる。変速レンジはよりワイドに、変速段数はより細かく、そして内部フリクションは限りなく小さく……。その結果として、最近のミッションはどんどん複雑でハイテク化してきているわけだ。
国産勢の多くが採用するCVTは、多段化という意味では理想的なミッションだ。エンジン回転数をまったく変えずに速度を変化させられるから、エンジン側の燃費ベストゾーンをピンポイントで利用することが可能。ステップ変速ミッションが8速になろうが9速になろうが、これだけはCVTにかなわない。また、弱点といわれていた変速レンジの狭さやフリクションロスの多さも、副変速機を組み合わせたりベルトやプーリーの改良で克服しつつある。
いっぽう、もともとMT比率が高かった欧州勢は高効率ATの開発では日本車に対して遅れをとっていたが、MT技術を進化させたDCT(デュアルクラッチトランスミッション)が急速に普及しつつある。
DCTの考え方は理想論からスタートしたCVTとは対照的で、MTの欠点を克服して効率を向上させていったもの。多段化は現状7速どまりだが、フリクションロスの少なさやダイレクト感のあるドライバビリティが売り。これまでMTを作っていた工場のラインを利用できるという生産性のメリットも見逃せないポイント。
燃費やドライバビリティはあくまでエンジンとのコンビネーションの問題だから、CVTとDCTのどちらが優れているかはいちがいに評価できないが、クルマ好きにはどうもDCTのほうが評判がいい。
これは、ダイレクトなトルク伝達フィールや歯切れのいいステップ変速フィールがMTに近い感覚をもたらすためだと思うが、このあたりは理屈だけじゃ割り切れない不思議なところ。
今秋9月に登場予定のフィットハイブリッドには小型モーターを組み込んだDCT(ホンダの場合はi-DCD)が組み合わされる予定だけど、もし燃費性能がアクアと同等なら、ボク自身もたぶんDCTを選んじゃうと思うなぁ。(文:鈴木直也)
●初搭載は?
CVTは1987年にスバルジャスティが初搭載。その後日産が精力的に開発をしたが、トヨタは出遅れた。いっぽうDCTは1980年代にポルシェがPDKというDCTを962に搭載。市販車では2003年にデビューしたゴルフR32に初搭載(日本には未導入)。
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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