普通乗用車のAT化が進み、すっかり定着した昨今。運転が楽になるに越したことはない故、その流れは路線バスのような大型車にも及ぶようになった。

文・写真(特記以外):中山修一
(バスのシフトパターンにまつわる写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■バスでも懐かしいMT車

MT仕様のバス車両も最近は数を減らしつつある

 2024年現在に各メーカーが発売している一般路線バス車両(路線車)には、基本的にAT方式の変速装置が標準装備されており、全くのゼロではないが、MT仕様の新車はあまりないと言える。

 とはいえ過去に製造された、電気信号を利用して変速機を制御する「フィンガーシフト」と呼ばれるMT方式を搭載した路線バス車両なら、今のところ全国各地でよく見かける。

 さらに昔の、物凄く長いシフトレバーが床から生えた、機械式マニュアルトランスミッションを持つ旧年式のバスも、絶滅にはまだ至っておらず、超絶にレアケースながら地方へ行くと出会えなくもない。

■MT車の「アレ」に注目!!

 さて、そんな珍しくなりつつあるMT車の路線バス。現在のキャブオーバー式の車で、一般路線バス向けのタイプには「前進5段/後進1段」の設定が多い。

 ここでふと気になったのが、大型車のバスでもシフトレバーを操作する順番とその位置、いわゆるシフトパターンは普通乗用車と同じなのか、という点だ。

 一応おさらいとして、MT仕様の普通乗用車でごく一般的なのは、フロアシフト5速なら「上段:1-3-5/下段:2-4-R」の配置。車種によっては1速の左隣にR(後進)が来ることもあり、位置に若干の違いが見られる。

■元々はレース用でした

 上記を踏まえて、現在普通に使われているMT仕様の大型路線車のシフトレバー周りを眺めてめることにした。確認に利用したのは、いすゞエルガ、日野ブルーリボン、日産ディーゼル・スペースランナーの3車種。

MT仕様の日野ブルーリボン(写真:バスマガジン編集部)

 すべてフィンガーシフト車で、シフトノブもしくはダッシュボードに別貼りされている、シフトパターンの説明に目をやると、どの車両も「R-2-4/1-3-5」の配置であった。

 普通乗用車と奇数・偶数の上下が逆の配置になっているわけだ。何か理由でもあるのかと思えば、このシフトパターンは元々レース用に考え出されたもので、2速と3速の切り替えを容易にするための工夫なのだそう。

 大型車はトルクが大きいため、2速発進をする場合が非常に多く、1速はあまり使わないことから、実質的な“出だし”のギアである2速が上段にあるほうが直感的に操作できるというメリットから、この配置が好んで選ばれるようだ。

■昔のバスはどうだった?

 バスでは「R-2-4/1-3-5」の配置が主流なところまでは何となく解った。ではこの配置、更に古い時代の長いシフトレバーを持つ車両でも同様なのだろうか。

1971年式いすゞTSD-40型ボンネットバスの運転席

 まずは1966年に製造された、現在の大型バスに通ずるデザインのキャブオーバー式大型路線車・日野RB10のシフトレバーに注目すると「R-2-4/1-3-5」であり、こちらも今と同様だった。

 他も変わらないのかと思いリサーチを続けていくと、ちょっと期待した通り変則的(?)なものが見つかった。1971年式のいすゞTSD-40というボンネットバスの一種がそれ。

 この車両は前進4段・後進1段で、シフトパターンは「R-1-3/2-4」の配置。普通乗用車とよく似たパターンの大型バス車両も過去にはあったわけだ。

 一方で1965年式のボンネットバスである、日産U690は更にユニークな「2-5-R/3-4-1」。使う機会の少ない1速とRを端にまとめて寄せる発想は今と似ているが、現行タイプとは正反対の右寄りに1速とRが置かれている。

風変わりなシフトパターンが目を引く、1965年式日産U690ボンネットバス

 現在のJIS規格一覧に「2-5-R/3-4-1」配置の変速機は記されていないため、古い時代の一部のクルマにだけ見られた、かなり特異な例かも知れない。

■100年を超える伝統!?

 古い時代のバス車両には現行と異なるシフトパターンがあると解った。それならついでに、もっと古い戦前の車はどうか……資料が少ないのに加え、時代を遡れば遡るほど大型車と普通車の垣根がなくなって行くので、ここからはトラックと普通乗用車向けの文献をリサーチ対象に含めた。

 その結果出てきたものが、1939年のシボレー製トラックが搭載していたとされる「1-3/R-2-4」の配置と、1917年発行の自動車技術解説本に、平均的な例として掲載されているシフトレバーが「1-3/R-2」のパターンであった。まさかそんな昔から定着していたフォーマットだったとは……。

『瓦斯倫自動車(1917)』掲載の変速機の図説。1-3/R-2の配置だ

 円いハンドルと床置きのシフトレバー、クラッチ・ブレーキ・アクセルを組み合わせた、現在のMT車とほぼ同じ配置の操縦装置を搭載した最初のクルマは、1916年に作られたアメリカ製のキャデラックと言われており、MT車には100年以上の歴史があるわけだ。

 ただし、1910年代に爆発的な普及を遂げ、トラックやバスのベース車にもなったT型フォードは運転方法が全く異なり、左足で踏むペダルのみでギアチェンジを行う。もしかするとT型フォードの全盛期には、運転技術に流派みたいなものがあったのかも!?

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