ドイツの潜水艦がジンスハイムの技術博物館への「移動」に成功した。内陸部までライン川を遡り、30軸のトレーラに載せて、伝統的な街並みを潜水艦が走った。

 ショイエレ製の多軸トレーラをけん引したのは、8×6にコンバートされた特別仕様の MAN TGX41.680 だ。この輸送に必要だったのは、強力なトレーラとトラクタ、技術と経験と集中力を兼ね備えたトラックドライバー、そして年単位でプロジェクトに取り組む関係者のチームワークだった。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/MAN Truck & Bus・Auto – Technik – Museum e.V.・Spedition Kübler GmbH

ドイツ海軍の「Uボート」を技術博物館へ

「Uボート」の重さは350トン。多軸トレーラと合わせて500トンの重さをトレーラでけん引する

 重量物輸送の専門企業・キューブラー(Spedition Kübler GmbH)でも、このような輸送はめったにない。

 積荷の「Uボート」は軍用艤装を解除したとはいえ、自重が350トンもある。その台車となる多軸トレーラが約150トンあり、合計すると重量は500トンを超える。これをMANのトラクタがけん引し、博物館まで運ぶ。

 なお、Uボート(U-Boot = Unterseeboot)はドイツの潜水艦の総称で、今回運ぶのは「U17」潜水艦だ。U17にもいくつかの種類があり、第一次世界大戦中に活躍したオリジナルの「U17」、第二次世界大戦中の「U17 タイプII B」などもあるが、運ぶのは戦後の「U17 タイプ206」となる。タイプ206はドイツ海軍で1973年に進水し、2010年に退役している。

 ドイツ北部・キールにある海軍基地から、同国南部・ジンスハイムにある技術博物館までの輸送だが、まずはドックに上げて軍用の装備と艤装を取り外し、付着物を清掃、タグボートでオランダのロッテルダムまで海上輸送する。

超重量物を輸送する際は、可能な限り水上を行くのが基本だ

 陸送距離をできるだけ短くするため、そこからライン川に入る。遡上してシュパイアーで陸に上がり、一時保管場所となる博物館まで輸送。輸送用の器材を整備したら再びライン川に下りて、マンハイムから支流のネッカー川に入りハスマースハイムに。そこからジンスハイムの目的地までは約4週間をかけて陸路を移動する。

 キールから移動を開始したのが2023年4月4日、ジンスハイムの博物館に到着したのが2024年7月28日、輸送期間はおよそ1年4か月だ。ただし、輸送のための準備はその数年前から始められている。

高さを抑えるために専用装置を開発

トレーラはショイエレ製の台車を組み合わせた合計30軸で、連結全長は約75メートルになる

 約50メートルの超重量物を、合計30軸のショイエレ製プラットフォームトレーラ(ローローダー)に積載し、MANの「TGX 41.680」トラクタでけん引する。おそらく本来は8×4の車両だが、キューブラーによると8×6(4軸6輪駆動)にコンバートされた特別仕様車だ。

 トラクタを含む連結全長は約75メートル、全幅約6メートル、全高約10メートルとなる。30軸プラットフォームトレーラで公道を走行するのはドイツで初めてだという。

 シュパイアーからの移動を開始したのは6月30日。途中、ポンツーン(はしけ)でライン川・ネッカー川を通り7月9日からは再び陸路。水路でも陸路でも、重量以上に輸送を困難にしているのがその寸法だ。

本当にここを通れるのかと思ってしまうが、事前に3D CADで理論上は通れることを確認済み。実際に通すのはドライバーの腕とチームワークだ

 水路では橋の下を通るために、陸路では線路との平面交差(踏切)を通過するために高さを抑える必要があった。そこでキューブラーは円筒形の潜水艦を荷台に乗せたまま73度回転させる専用装置を開発した。

 U17潜水艦専用の回転装置はシュパイアーでの一時保管中に繰り返し試験を行ない、本番に備えた。こうした専用ソリューションの製作は、世界各地で超重量物輸送を行なっている同社にとって珍しいことではないそうだ。

橋の下や鉄道を超えるには高さを抑える必要がある。この輸送のために潜水艦を回転させる専用装置を開発した

 シュパイアーからジンスハイムまで、通常ならクルマで30分の距離だ。潜水艦は29日かかった。

ドライバーには極度の集中力が求められる

ドイツ南部の美しい街並みを、潜水艦が走って行く非日常的な光景

 重量物輸送において、強力なトラクタと強力なトレーラに加えて不可欠なのが、経験と技術と集中力を兼ね備えたプロのトラックドライバーだ。

 ジンスハイムへの道のりで MAN TGX 41.680 8×6 のハンドルを握ったフリーデル・サーム氏は「重量物輸送を何年も行なっていますが、一つとして同じ仕事はなく、常に特別な仕事です。大きなものを運ぶのは、自分の誇りです」と話している。

 こうした輸送では、実際にモノを動かし始めるまで数年をかけて準備を進める。輸送可能なルートを事前に調査し、3D CADを使ってシミュレーションを行ない、行政や警察とも細部にわたって調整する。すべての重量物輸送は、それ専用にカスタマイズされた輸送だ。

鉄道の架線の下をくぐる。潜水艦回転装置が本領を発揮

 U17の輸送計画が始まったのは実に5年も前となる。キューブラーではこの輸送のために専用の人員を割り当てているが、ドライバーのサーム氏も当初から関わっている一人だ。

 輸送には極度の集中力が求められる。重量物輸送は見た目に反して繊細で、細かな努力を要する。水路では全長90メートル、高さ10メートルのはしけで橋の下をくぐらなければならない。クライヒガウ地方の「映える」街並みは狭く、もちろん潜水艦が「走る」ことを想定していない。

 キューブラーのプロジェクトマネージャーのニクラス・グリム氏は次のように話している。

 「こうした輸送はチームで行なわなければ成功しません。世界の重量物輸送に挑戦し続けている弊社の従業員には多くの経験があります。ジンスハイム技術博物館が私たちを信頼し、この複雑なプロジェクトを任せてくれたことを誇りに思います」。

ジンスハイム技術博物館へ、Uボートの「凱旋」。数年掛かりの輸送を無事に終えた

 Uボートだけでなく、この輸送自体もまた技術史に残すべきものだ。ジンスハイム・シュパイアー技術博物館は、Uボート輸送に関する特設ページを公開している。
(Das U-BOOT The final transport, 350 tonnes of Technology, People, Stories)

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