これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、ハード志向のSUVが多いなかで独自性をアピールした、マツダ トリビュートを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/マツダ
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■経営危機の最中にフォードとともに作り上げたクロスオーバーモデル
現在のマツダは、国産メーカーのなかではトヨタ、レクサスに次いでSUVラインナップが多いが、その礎となったのが、マツダ初のSUVとして2000年11月に発売された「トリビュート」だ。
洗練されたスタイルと広い室内、悪路走行をこなせる能力を持ちながら、オンロードでの操縦性に秀でた、現代風に言うならクロスオーバーSUVとして注目を集めた。そのうえでマツダブランドの個性である「センスのいい」「創意に富む」「はつらつとした」というキーワードをクルマ全体で表現していた。
当時のマツダは1990年代前半に起きたバブル崩壊と国内販売の5チャンネル体制の失敗によって深刻な経営危機に直面し、それまで提携関係にあったフォードの傘下となり経営再建の真っ最中だった。
トリビュートの開発にはそうした実情が絡んでおり、親会社であるフォードと共同開発され、右ハンドル車はマツダの防府工場で、左ハンドル車はアメリカにあるフォードのカンザスシティ工場で生産された。さらに、アメリカ市場ではフォードエスケープ、ヨーロッパ市場でもフォードマーベリックのネーミングで発売されていた。
マツダの外国人社長として3人目となったマーク・フィールズは、生産開始セレモニーの席で、「トリビュートはマツダとフォードとのプラットフォーム共通化戦略に基づく初の記念すべき共同開発車であると同時に、マツダの21世紀の先頭をきる商品である。トリビュートが広く全世界でマツダファンの拡大に大きく貢献してくれるものと期待している」と語っている。
トリビュートが他のSUVと大きく異なるポイントして、高いボディ剛性、新設計のサスペンション、パワフルな3L V6エンジンの搭載などにより、SUVでありながらクルマを操る楽しさを具現化している点が挙げられる。
マツダは当時から「意のままに操れる人馬一体のドライビングプレジャー(運転する楽しさ)」を、すべての乗用車で共通テーマとしていた。
マーク・フィールズは、「マツダの走りのDNAを反映させることで、『ドライビング・エンタテインメントSUV』という新しい価値を提供しており、まさにブランドメッセージの『心を動かす新発想。』を具現化している」と、並々ならぬ自信を伺わせた。
そんな自信の裏付けとなる要素を見ていこう。まず、ボディは進化した高剛性かつ安全ボディの「MAGMA(マグマ)」を採用。MAGMAとは、「MAZDA Geometric Motion Absorption(マツダ・ジオメトリック・モーション・アブソープション)」の略で、マツダが独自に開発した全方向衝撃吸収構造ボディのこと。
衝突時の衝撃エネルギーを車輌全体に分散させ吸収することでキャビンの変形を抑えることができるというこのMAGMAを、さらに進化させるべく、軽量化を図りながら重要部分の効果的な強化を実施。その結果、モノコックボディを持つSUVのなかでトップレベルのボディ剛性を実現した。
走りにおいてはシャシーの能力もキモとなるが、積載状況にかかわらず舗装路、悪路の両方でハイレベルな操縦安定性を実現するため、サスペンションはフロントにマクファーソンストラット、リアにマルチリンクを採用した。
この足まわりをベースにしながらロールステア特性の設定など、細部にわたってチューニングを行うことで、操舵に対して正確な反応を示すハンドリングとフラットな乗り心地を実現している。
ブレーキも強化され、フロントには大容量ベンチレーティッドディスクを採用し、リアのドラムブレーキの容量も十分に確保している。そのうえでEBD(電子制御制動力配分システム)付きABSといった機能を加えることで高い制動性能を発揮する。こうした特性もクルマを自在にコントロールできる要素となっている。
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■販売の主軸はパワフル特性を実現した3Lエンジン搭載車
パワーユニットは3L V6と2L 直4の2タイプを設定。主力となる3L V6は、最高出力203psという車格に見合ったパワフルな特性を発揮しながら、2000rpmの低回転域から27.0kgmという最大トルクの90%以上を発生することでスマートに扱える。
2Lエンジンのパフォーマンスは最高出力129ps/最大トルク18.7kgmと平凡だが、レギュラーガソリン仕様で優れた実用性能と排出ガス性能を実現している。
SUVなので駆動方式は4WDがメインとなるが、4WDシステムにはシンプルで実用的な電磁ロック機構付きロータリーブレードカップリング(RBC)式が採用された。このRBCによって、通常はほぼ前輪駆動で走行し、前輪がスリップした場合には後輪にも自動的に駆動力を配分して、雪道などでの走行安定性の向上が期待できた。
また、走行中でもインパネに設けられたスイッチ操作によって電磁ロック機構を瞬時に作動させ、4WDに固定することも可能だ。これにより、圧雪路などの滑りやすい路面状況でも安定した走行を実現するとともに、ぬかるみでスリップしたときの脱出が容易に行える。
一見すると大柄に思えるが、全長はファミリアセダンと同等の4395mm。2620mmのロングホイールベースと、エンジン横置き、フロントオーバーハングを短く設定することで、室内長は1810mmとし、前席はもちろん後席の足もとにはゆったりとしたスペースが確保された。
室内の広さは荷室容量の拡大にも効果をもたらしており、荷室長は後席使用時でも922mmと日常用途に十分なスペースが確保できる。さらに、後席の座面を取り外して背もたれを前方に倒すことで最大で1820Lまで広げられることから、大きな買い物の荷物、キャンプ用品や自転車などのレジャーアイテムも余裕で積載できる。
コンパクトなリアマルチリンクサスペンションによりホイールハウスの張り出しが小さいこと、テールゲートの開口部が大きいこと、さらに小物の積み降ろしに便利なガラスハッチを備えていることなども、優れた積載性に貢献。SUVに必須となる高いユーティリティ性能を実現している。
外観は、当時のマツダがデザインテーマとして掲げていた「コントラスト イン ハーモニー」を反映させることで洗練さと力強さを表現。
ボンネットのキャラクターラインや力強い前後のフレアフェンダーなどによって実現したスタイルは、街なかでも自然のなかでも際立ち、ハード志向のモデルが多かった当時のSUVクラスでは独自の世界観を表現していた。インテリアは、乗用車感覚の快適性と機能性を重視した造形で仕上げられ、使い勝手のよさとセダンなみの快適性が追求されている。
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■スポーティなイメージは現在のCXシリーズが継承
日本市場では2000年~2006年まで販売されていたが、その間に改良も実施されている。まず、2001年には内外装をスポーティに一新。外観では一部ボディとクラッディングのカラーを変更し、都会的でスポーティなイメージを強調した。インテリアは、内装色をブラックで統一し、シートのセンターをメッシュ布、サイドとヘッドレストをスエード調とするなど、スポーティな雰囲気を演出しながら上質感も表現している。
さらに2003年に実施されたマイナーチェンジでは、2Lエンジン搭載車を廃止し、その代わりにMPVで好評を博していた2.3L MZRエンジン搭載車をラインナップされた。
トリビュートは走りのよさをセールスポイントとしていたが、動力性能に関しては3L V6エンジン搭載車に比べて、2L直4エンジン搭載車のパフォーマンスはいまひとつだったことは否めない。そこで、2.3Lエンジンを搭載することで、4気筒モデルの走りの基本性能を飛躍的に向上させたわけだ。
また、外観はリアコンビランプや一部グレードのアルミホイールのデザインを一新し、インテリアはオーディオリモートコントロールスイッチ付き3本スポークタイプステアリングやマップランプ組込の大型オーバーヘッドコンソール、シート生地などの変更によりスポーティ感と質感を高めるとともに、利便性の向上が図られた。
トリビュートは広くて快適な室内、アウトドアライフに適した機能性の高さ、使い勝手を高める装備が充実させることで、日常的な用途だけでなく、アクティブにレジャーを楽しめる本格アウトドアレジャービークルとして人気を博した。
車名のトリビュートは、「感謝の証として捧げるもの/讃辞」を意味する英語に由来したもので、マツダの創造性と技術力をユーザーに捧げ、アクティブなライフスタイルの実現に寄与するという思いが込められた。その思いは、現在マツダSUVの中核を担っているクロスオーバーSUV「CXシリーズ」に受け継がれている。
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