10月2日から4日までの3日間、東京ビッグサイトにおいて「H.C.R.2024 第51回国際福祉機器展&フォーラム」が開催された。
国際福祉機器展は1974年11月に厚生省(現厚生労働省)と社会福祉法人全国社会福祉協議会の共催により、「社会福祉施設の近代化機器展」として始まった。毎年10万人を超える来場者をイベントだが、2020年は新型コロナウイルスまん延により中止、その後2021年は4万人弱、2022年は9万人弱と徐々に入場者数は回復。2023年には11万人強、今年2024年は12万人を超える入場者を迎えた。会場には外国人の姿も多く、国際の名に恥じない展示会となっている。400社・団体を超える出展のなかから自動車関連の気になる展示を報告する。
◆トヨタ自動車:道なき道を走れる車いすやワンタッチタイプの車いす固定装置を展示
トヨタ自動車/JUUライトトヨタは市販の福祉車両に加えて、いくつかのコンセプトモデルを展示した。市販モデルについては写真キャプションを参考にしてもらうとして、コンセプトモデルを紹介しよう。ブース内でひときわ注目を集めていたのが「JUU」と名付けられた車いす。「JUU」はJoy & Job・Universal・Utilityの頭文字を取ったもの。2023年のジャパンモビリティショーにもJUUは展示されているが、今回のモデルは少し方向性を変えた2モデルとなった。「JUUプロト」と呼ばれるモデルは道なき道を走れる機動性を持たせたモデル、「JUUライト」は都会での使い勝手を重視したスタイリッシュなモデル。いずれも右側にある小さなジョイスティックのみで前後左右に動かすことが可能だ。
ワンタッチタイプの車いす固定装置は、従来は固定に手間と時間が掛かっていたものを容易にしようというもの。具体的には車いす下部に横方向のアンカーバーを取り付けることによって、固定を簡易化しようとするもので、各社がこの方式について独自の方式を開発している。トヨタの場合は床面に取り付けられた2つのフックにアンカーバーを引っかけて電動でフックを動かして固定するタイプ。
ティルト・リクライニング機構付きモジュラー型車いすは、医療的ケア児の通学などを考えて設計された車いす。医療的ケアが必要な児童は、症状や状態などによってさまざまな姿勢が求められる。そこで、車いす状態からストレッチャーのようになるフルフラット状態までを自在に変形できる。もちろん車載時の安全性も考慮。このモジュラー型車椅子を載せやすいクルマの車内構造も開発中。助手席をタンブルシートとすることで、運転席から車いすに乗った子供の顔が見えるようにしている。
◆トヨタモビリティ基金:移動の可能性を広げるアイディアコンテストを実施
トヨタモビリティ基金/ブース全景世界中のさまざまな移動課題の解決に取り組んでいる財団のトヨタモビリティ基金では、アイデアやソリューションの社会実装を目指すアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」の「Mobility for ALL~ 移動の可能性を、すべての人に」部門において、本年2月に2024年度の新たなアイデアの公募を実施。10チームを採択、その一部を国際福祉機器展にて紹介した。
日本からは4チームが紹介された。テクノツールは、同社が開発した重度肢体不自由のある方たちが操作できる「eモータースポーツ用手動装置」を展示。手動装置の商品化だけでなく、eモータースポーツチームの結成も行う。
袖縁(そでえん)からは企業名と同じアプリの「袖縁」が出展された。「袖縁」はサポートを受けたい障がい者とサポートしたい人とをつなげるスマホアプリ。障がいのある方は店舗などに訪れた際、毎回「耳が不自由なので筆談でお願いしたい」というよにリクエストすることがあるが、「袖縁」を使うとサポートされたい側の希望がサポートする側のスマホに表示されるため、ストレスなくスムーズに両者をつなげる。
Ashiraseは「あしらせ」という視覚障がい者向けのガイドツールを展示した。両足の靴に「あしらせ」本体を取り付け、iPhoneにアプリをインストールすると使用可能となる。「あしらせ」本体には振動する機構があり、iPhone内で生成されたルートを振動によって知らせストレスなくルートガイドする仕組み。右左折のお知らせだけでなく、曲がり角までの距離なども知らせてくれるほか、マイルートの作成&メモリー、音声による注意喚起なども行う。また、オプションに加入することでオペレーターのサポートを受けることも可能。
電通は視覚障がいのある方向けスポーツ実況リアルタイム生成AI「Voice Watch(ボイスウォッチ)」を展示した。モータースポーツを一として、スポーツ観戦では場内放送などはあるものの視覚障がい者はその展開を把握しづらい。「Voice Watch」ではスマートフォンのカメラ映像から前を通過するチームを判断し利用者に知らせることが可能。また、順位変動になどについてAIが予測し展開の兆しを知らせることも行う。モータースポーツアナウンサーのピエール北川氏の実況約50時間分をAIが学習し、実況に生かされている。
スイスのLighthouse Techはスマートグラスの「TAMI」を展示。「TAMI」はサングラスのテンプル(ツル)の部分にセンサーと振動体を仕込んだアイテムで、身体の腰から上の高さにある障害物(たとえば木の枝やクルマのミラーなど)を検知して、振動で利用者に知らせるというもの。白杖では分かりにくい高い位置の障害物を検知することで、よりスマートな歩行をサポートする。テンプルを好きなメガネやサングラスに取り付けられる。
オランダのHable Oneは視覚障がい者向けのスマートフォン・タブレット用の点字キーボード「Hable easy」を展示した。視覚障がい者はスマートフォンやタブレットの入力時におもに音声入力を利用しているが、音声入力はプライバシーやマナーの観点から使いにくい場所もある。そこで点字で入力できるようにしたのが「Hable easy」。EU各国やアメリカ、オーストラリア、カナダなどではすでにローンチ済みとなっている。
◆日産自動車:3種の福祉車両を展示、注目キーワードはユニバーサルタクシーデザイン認定レベル準1
日産自動車/セレナ チェアキャブ リフタータイプ日産自動車と日産モータースポーツ&カスタマイズは、現在発売中の「セレナ チェアキャブ スロープタイプ」「セレナ チェアキャブ リフタータイプ」「キャラバン チェアキャブ」の3機種を展示した。
日産の福祉車両のキーポイントはセレナが標準仕様ユニバーサルデザインタクシー認定制度の「レベル準1」認定となっていること。標準仕様ユニバーサルデザインタクシー認定制度では、誰もが使いやすいユニバーサルタクシーとしての性能をレベル付けする制度で、もっとも上位がレベル2、その次がレベル1となる。しかし、レベル1で認定されるのもかなり難しくなっているのが現状。そこで新たに設定されたのがレベル準1。車いす用の福祉車両としては実際の使い勝手ではレベル準1でも十分に機能するとのこと。
レベル2やレベル1を目指したモデルは価格的に高くなりがちで、自治体などでの導入はもちろん利益を出さなくてならないタクシー会社でも導入しづらい。そこでレベル準1というクラスが設定され、よりユニバーサルタクシーの普及を進めようというわけである。今回はレベル準1認定を受けている2機種のうち、セレナ チェアキャブ スロープタイプが展示された。
セレナのスロープタイプはスロープを収納した際、以前は開口部で垂直状態にスロープを収納していたが、現在のタイプはフロアにフラットに収納可能。スロープの上に荷物を置くことはもちろん、サードシートを展開することが可能で、車いすを乗せていないときの使い勝手をグッとアップしている。さらにスロープの下に挟み込む「スロープ耐荷重アップブロック」を設定。この金属製ブロックをスロープ下にセットすることでスロープの耐荷重を200kgから300kgに向上できる。また、リフタータイプにオプションで用意されている電動式車いす固定装置のフックは、車いすのフレーム交差部分2カ所に掛けるだけで固定を可能にしている。このフックは分割が可能で分割した際は4カ所に掛けられ、さまざまなタイプの車いすに対応可能だ。
◆スズキ:セニアカーの試乗会を実施するとともに法人向け車両管理サービスを紹介
スズキ/スペーシアの車いす移動車スズキは福祉車両のウィズシリーズを展示するともにセニアカーの試乗会を実施した。ウィズシリーズのなかでも人気となっているのが『スペーシア』の車いす移動車。この車いす移動車はワンタッチタイプの車いす固定装置が採用されていた。トヨタではアンカーバーを引っかけたフックを電動でロックしていたが、スペーシアの場合は車いすを引っ張り上げるウインチをつかってテンションを掛け、固定する方式を採用している。
法人向け車両管理サービスは「スズキフリート」のネーミングで販売されているもの。専用デバイスをアクセサリーソケットに差し込むことで、自車位置を発信。管理者がモニターでクルマの位置を確認できる。アルコール検知器もセットとなっており、アルコールチェックもリンクさせられる。
◆マツダ:市販予定のCX-30ハンドドライブモデルを展示
マツダ/CX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)マツダは『MX-30』にリング式アクセル、レバーブレーキ、ブレーキサポートボード、移乗ボードなどを装備したハンドドライブモデル「MAZDA MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」をすでに市販しているが、同様の仕様を装備したCX-30「MAZDA CX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」を展示した。筆者はMX-30に試乗したことがあるが、ステアリング内側に取り付けられたリング式アクセルが使いやすく、すぐに慣れてしまった経験がある。こうした障がいを持つ方も積極的に運転できるようなクルマ作りをするところはいかにもマツダスピリッツにあふれている部分だ。
◆ジェイテクト:パワーステアリングの技術を投入したアシストスーツを展示
ジェイテクト/アシストスーツの「J-PAS fleairy」装着状態トヨタグループの一員であるジェイテクトは、ステアリングまわりや駆動関係などに強いメーカー。今回の国際福祉機器展には同社が開発、製造しているアシストスーツの「J-PAS fleairy(ジェイパス フレアリー)」。介護や看護の現場では力仕事も多く、職員には身体的に大きな負担がかかっている。
ジェイテクトではパワーステアリングのモーターとそのトルク制御技術を応用したアシストスーツを開発。汎用性の高い製品とするのではなく、介護や看護に特化した製品とすることで現場での使い勝手を大幅に向上している。一般的にアシストスーツやパワースーツはロボットのようなゴツいデザインのものが多いが、「J-PAS fleairy」はエクステリアを布とすることで介護や看護される側の精神的負担を軽減。装着はわずか20秒で終了。使用時のモードは通常モードと大きくアシストするターボモード、アシストしないフリー動作モードの3モードを選択可能だ。
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