これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、プレサージュの兄弟車ながら異質のミニバン、バサラを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
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■ダイヤモンドに由来する車名に相応しい品格を表現
ミニバンが1990年代後半には、実用性だけでなく、プレミアムな装いで個性を主張し、独特の存在感を主張した魅力的な高級ミニバンの選択肢が豊富に揃っていた。
1999年11月に日産から発売された「バサラ」も高級ミニバンに分類された1台で、同じく日産製ミニバンのプレサージュの上級バージョンとして位置づけられた。サンスクリット語で神の力を秘めたダイヤモンドの名前に由来する車名からも、バサラの高級ミニバンとして与えられたキャラクターが表現されている。
開発に際しては「ダンディ ミニバン」をキーワードとし、存在感のあるスタイリング、上質感溢れるインテリア、すべての席で快適な室内空間という3つの特徴にこだわって作り込まれ、既存のミニバンとは明らかに異なる個性を主張している。
ミニバンといえば箱型でスライドドアが定石となっているが、バサラは全高を1770mmと低く設定してスタイリッシュなイメージを強調しており、サイドドアは前ヒンジの後ろ開き式としていた。
ベースとなったプレサージュと似通った点は見受けられるが、バサラでは高級感を演出するべく、メッキパーツを多用し、さらにヘッドライトを骨太感のある造形にして押し出しを強調したり、スモークメッキ調縦桟グリルとパンパー一体型のフロントスポイラーを備えることで、ダイナミックなイメージをアピールしていた。
また、サイドシルプロテクターやリアスポイラーを装着したエアロダイナミックデザインは、当時のミニバンクラスで人気だったオデッセイを意識していたことは明白。高級感だけでなく、スポーティな雰囲気を漂わせていたことも外観における大きな特徴と言える。
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■大柄なサイズと車重をものともせず爽快な走りを実現
車内も外観でアピールした特徴が随所に見てとれる。デザインの基本はプレサージュに準じているが、ダークグレーとウォームグレーのハイコントラストなツートーンカラーによって上質感を演出するとともに、メーター、パワーウインドウスイッチフィニッシャー、シフトレバーなどをカーボン調としたスポーティな空間としている。
シートはメインとなる部分とサイド部をインテリアカラーと同様にツートンカラーでコーディネイト。これによってインテリア全体で統一感を持たせている。また、クッションに十分な厚みを確保し、座面を長くするなど、長距離走行でも疲れにくい配慮がなされているのもポイントだ。
さらにフロントシートには、シートバックサイド部に異硬度ウレタンを採用してホールド性を高めるとともに、角度調整式アームレストを標準装備。こうした装備も快適性を高め、乗り込むたびにオーナーに満足感を提供してくれる要素となっていた。
全長が4795mm、全幅を1770mm、全高1725mmで、ホイールベースを2890mmに設定したLサイズミニバンで、車重が1610~1790kgに達するため走りへの影響が懸念されるが、その点は心配無用。エンジンは、直噴ディーゼルエンジンのYD25DDTiをはじめ、ガソリン仕様がVQ30DEとKA24DEという合計3タイプを揃えている。
いずれも高出力と優れた室内静粛性を兼ね備え、街乗りでのパワフルな走りと高速域での爽快な伸びを実現。特にディーゼルエンジンには、荷重センサーがエンジンの振動を検知すると電磁アクチュエーターがその振動を打ち消すように作動し、車内に伝わる騒音と振動を低減させるアクティブコントロールエンジンマウントを装備。
VQ30DEエンジン搭載車には振動の伝達を効果的に遮断する電子制御式エンジンマウントを採用している。こうしたメカニズムによって、車格に見合う動力性能を発揮しながら、質の高い走りが味わえたのも走りにおいてはセールスポイントとなっていた。
サスペンションはフロントがストラット、リアをマルチリンクとし、優れた操縦安定性としなやかな乗り心地の両立を目指した。そのうえでストレートに配した大断面のフロントサイドメンバーやアウトリガーの適正配置を実施したほか、リアピラーまわりの補強などを行うことで路面追従性を高め、乗用セダンとまではいかないもののミニバンのなかではトップレベルの操縦性を発揮。ミニバン特有の全高やカーブでのロールを意識させず、あらゆる場面で爽快な運転感覚が味わえた。
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■利便性を高める機能と装備を充実させて実用性もハイレベル
ミニバンにとって必須となる実用性についても申し分のない能力を有している。後部ドアはスライド式ではないが、後席のヒンジ式ドアは90度近くまで開き、2列目シートのウォークイン機構によって、2列目はもちろん3列目シートへのアクセスがしやすくなっている。
さらに、2列目シートには可動域が約300mmのロングスライド機構が備わっており、左右に跳ね上げられるマルチアップ式の3列目シートと相まって多彩なシートアレンジが可能で、乗車人数や荷物の量と大きさに合わせて柔軟に対応できる。運転席まわりにも使い勝手のいい収納が設けられているので、身のまわりの小物を車内で整理するときにも困ることはない。
標準仕様のほか、日産車をベースにしたカスタムモデルのプロデュースや製作を行っているオーテックジャパンが手掛けた特別仕様車「アクシス」も選べた。アクシスは、バサラの内外装に専用装備をプラスして、「よりおしゃれでより上品なダンディミニバン」というコンセプトを具現化したカスタムモデルだ。
外観のカスタムがメインで、フロントまわりは洗練されたオリジナルデザインとし、16インチアルミホイールとローハイトサスペンションを装備。こうしたカスタムによって、ベース車とはひと味違う個性的でスポーティなスタイルとしていた。
ファミリーを中心に支持され、新車市場においてカテゴリーそのものが拡大傾向にあったミニバンクラスのなかで、バサラは“高級”であることを打ち出し、内外装の作り、走行性能についても狙いをしっかりと具現化していた。そのうえで優れた使い勝手を実現しており、ミニバンとしての完成度の高さは申し分なかった。
しかし、ライバルのオデッセイが強すぎたこと、プレサージュほどの知名度を得られなかったこと、さらに当時の日産が推し進めていた経営合理化策の影響を受けたことなど、さまざまな要因が重なり販売成績は振るわず、2003年6月にはプレサージュに統合され生産中止となった。
ライバルよりも室内空間に余裕があり、エンジンラインアップが多彩で走りも満足できるレベルにあったバサラ。独特の気品を感じさせる作りによって、高級ミニバンのあるべき姿をユーザーに強くアピールしていただけに、1代で消えてしまうには惜しいクルマだったと言っていい。
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