鉄道マニアと同様にバスマニアにも多くの「分野」が存在する。つまり専門とする内容により趣味の範囲が異なるのだ。さんなバスマニアの最近の声を集めてみた。興味のない方には、こんな世界もあるんだと怖いもの見たさの感覚でのぞいていただきたい。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■バスの車体は別メーカー!

ジェイアールバス関東の日野・ジェイバス製セレガ

 バスは乗用車と異なり、エンジンの他にバスの土台や骨組みとなるシャシーを自動車メーカーが作り、バスの車体や内装はボデーメーカーが作る。かなり大雑把に言うと2社共同でバスを完成させていると考えて差し支えない。

西日本鉄道の三菱ふそう製スーパーハイデッカー車エアロクイーン

 エンジンはかつてごくわずかな輸入車を除いてはほぼ国内4メーカーのバスが走っていた。それぞれのシャシーメーカーには純正ボデーと言われる標準の車体が指定されていて、そのボデーメーカーの車体で納車してもらうもよし、ほかのボデーメーカーの車体で納車しても良しというように、バス事業者の要求や方針に従ってオーダーメイド級の注文だった。

三重交通のいすゞ・ジェイバス製連節車エルガデュオ

 これは例えるならば、トヨタカローラと日産サニーが違う車体メーカーに注文してほぼ同じ形状で納車されるということが、バスの世界では当たり前だったのだ。もちろん純正ボデーの指定メーカーは他のシャシーメーカーのバスは作らないことがほとんどだが、独立系のボデーメーカーは国内4社すべてのシャシーに架装できるというミラクルな技を持っていた。

■ボデーのバリエーションが少ない!

西鉄バス筑豊の日産ディーゼル・西日本車体工業製B型高速車

 ところが、不況により大型車メーカーがバス事業から撤退したり、純正ボデーメーカー以外にはシャシーを供給しなくなったりと、極端な整理が進み独立系のボデーメーカーは清算してしまい消滅する等のバスマニアには衝撃的な事件を経て現在に至る。よって現在ではどの事業者でもほぼ同じ形のバスしか見なくなってしまった。

西日本鉄道のスカニア・ボルグレン(オーストラリア)製連節車

 このバリエーションの少なさがマニアにとってはつまらない要因の一つになっている。細かいところの仕様は違うのだが、見た感じはどれも同じに見えるのでつまらないというわけだ。

■エンジン音に迫力がない

西鉄バス北九州の日産ディーゼル・西日本車体工業製スペースランナー

 バスのエンジンはかつては1万ccを超えるディーゼルエンジンが多かった。重いバスを発進させてそれなりの速度で走らせるために、いわば排気量の力技で動かしていた馬力重視の構成だった。しかし環境への配慮による排ガス規制や燃費の向上という要求にこたえるためにダウンサイジングが積極的に行われた。

西鉄バス北九州のメルセデスベンツ製連節車シターロG

 その結果、排気量が小さくなりパワー不足を補うためにツインターボ搭載車が多くなっている。以前はV型12気筒エンジン22000ccで450馬力というバスも普通に走っていた。これは1気筒当たり約1900ccなので、ガソリンエンジンとの違いはあるものの、普通自動車12台以上のエンジンを積んでいた計算になる。

■燃費やクリーン化に寄与したものの…

関東バスの日産ディーゼル・西日本車体工業製スペースランナー

 最近の路線バスは直4の5000ccツインターボで、250馬力程度である。高速車と単純比較はできないが、それでもエンジンがかなり小さくなっていることは事実だ、当然ながらマニアは迫力のあるエンジンサウンドが消えたことにつまらなさを感じる。

東京都交通局のスカニア・ボルグレン製フルフラットバス

 マニアが好む好まないは趣味の世界なのでどちらでもよいとしても、このダウンサイジングは昔からバスを走らせてきたベテランの運転士にとっても不評で、記者が取材する機会に運転士に聞くと一様に「パワーがない」「非力」「走らない」とのコメントを発することが多い。

東京都交通局のトヨタ・ジェイバス製の燃料電池車SORA

 マニアに限らずプロにもあまり評判は良くないようだ。しかし世界中のバスはこの流れなので、もはや排気量で押し切るパワー勝負の時代ではないのかもしれない。

■ダブルデッカー車のジレンマ

西日本ジェイアールバスの三菱ふそう製エアロキング

 マニアでなくても人気の二階建てバス(ダブルデッカー)は、国産車が製造を中止して新車で納車されるのはすべて輸入車になっている。マニア的にはデザインが美しく迫力のある走りが人気だった国産車の三菱ふそうのエアロキングだが、すでに現役で走っている車両は少ない。つまり経年により廃車が進んでいるのだ。

ジェイアール東海バスの三菱ふそう製エアロキング

 現在のダブルデッカー車の主流はスカニア・バンホールのTDX24(J-InterCity DD・アストロメガ)である。スカニアはスウェーデンの大型車メーカーで大型トラックでもよく見かける。バンホールはベルギーのボデーメーカーなので、スウェーデンメーカーのエンジンと足回りに、ベルギーメーカーの車体を架装したのがTDX24というわけだ。

はとバスのスカニア・バンホール製のアストロメガ(手前)

 高速車や貸切車に導入され、最新の安全装置や欧州的デザインで洗練されたイメージがあるのがTDX24だ。こんな大きな二階建てバスでもエンジンは直6の13000ccで410馬力だ。それでもマニア的には残り少ないエアロキングの方に圧倒的な人気がある。

 プロの運転士に聞いてみると、視点により評価は分かれる。走りについては概ね満足できるようで不満を聞いたことはあまりない。しかし電装系に難が多いようで、故障の多発は国産車の比ではないという。またダブルデッカー車の考え方の違いから概してサスペンションがかために設定されているようで、乗客の乗り心地という面ではエアロキングに軍配が上がるようだ。

フジエクスプレスのスカニア・バンホール製InterCityDD

 これは海外におけるダブルデッカー車は多くの乗客を詰め込める「容量重視」のため、乗り心地は二の次で路線バスとしての考え方である。日本では観光バスや高速バスで床面積の広さをシートピッチの拡大や高い座席位置からの車窓の良さに重きを置いた高速バスや観光バスでの使用を前提としているので、乗り心地は重要なのだ。

■マニアの声もあながち間違ってはいない?

はとバスのいすゞガーラ

 本稿はあくまでもマニア的な目線で趣味の範疇での意見に過ぎないが、プロの運転士の話も加えてみるとまた違った見え方ができる。マニアの見方と運転士の見方は異なるが、結論は同じというケースも多いのが面白い。

 たかがバスなのだが、毎日乗る路線バスですらマニアは楽しくて仕方がないのだ。こうなるとラッシュ時の通勤や通学の時間も至福の時間に変わる。読者の皆さんもバスマニアはいかがです?

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