日本で暮らす外国人が増える中、赤ちゃんに絵本を贈る活動に取り組む「NPOブックスタート」(東京都新宿区)が、異国での子育てを応援したいと中国語やベトナム語などに翻訳した「多言語対応絵本」を作った。
昨年度に実施した試験提供では自治体を通じて「自分の国の言葉で絵本が読めるなんて」と驚きや喜びの声が届いたといい、今後も継続していく道を探っている。
擬音語、擬態語に工夫必要
「ブックスタート」は、乳幼児を対象にした健康診査(健診)などの機会に読み聞かせをし、絵本を贈る活動で、NPOブックスタートによると2024年5月時点で約1100の自治体が実施している。
外国にルーツを持つ親子にも絵本の読み聞かせを楽しんでほしいと、NPOブックスタートは昨年、日本の絵本を翻訳した多言語対応絵本の制作を企画した。
作家や出版社などから許諾が取れた6作品について、大阪市の団体の協力を得て中国語▽韓国語▽ベトナム語▽ネパール語▽ポルトガル語の5言語に訳し、「翻訳シール」を絵本に貼り付けた。
事業を担当したNPOブックスタートの安井真知子さんは「翻訳シールが貼れるよう余白が多い絵本を中心に選びました。『ぶっぶー』などの擬音語や擬態語は言語によって表現が違い工夫が必要でした」と振り返った。
23年8月~24年2月の試験提供には32自治体が参加し、計約400冊が配布された。自治体職員からは「外国人住民と信頼関係を築く一助になった」「どの言語が必要かニーズを探るのに役立った」などの声が寄せられた。
5言語は法務省の在留外国人統計などを基に選んだ。一部の自治体からは英語の要望も上がったが、「英語版があると日本人の親も欲しがるかもしれない」という意見もあった。安井さんは「何言語まで載せるかは悩みました。数が増えるとスペースを取ってしまって読みにくくなってしまうこともあり、なかなか難しいです」と明かした。
「まさか自分の国の言葉が……」
茨城県牛久市は近年外国人が増えており、「一つの住民サービスとして活用してみたい」と試験提供に参加した。3カ月児健診の際に日本語があまり話せない保護者に手渡した。受け取ったある父親は「まさか自分の国の言葉の絵本があるとは思っていなかったので驚きました」と喜んでいたという。市立中央図書館の司書、星野美紀さんは「母語の本がプレゼントされれば家でも読み聞かせをしてみようと思ったり、子育てを応援してもらっていると心強く感じたりするのではないでしょうか」と話す。
NPOブックスタートは改善策を検討し、今後も事業を継続していく方針で、7月5日午後1時からはオンラインで試験提供の報告会を開く。安井さんは「予算などの課題はあるがニーズは感じており、皆様の知恵を借りながら絵本を通じた多文化共生社会を実現したい」と呼びかける。
報告会は参加無料で、申し込みは28日まで。【宮川佐知子】
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