愛媛、高知両県で震度6弱を観測した17日夜の地震の震源地は、近い将来の発生が予測される南海トラフ巨大地震の想定震源域内にあり、巨大地震との関連も疑われた。今回は発生メカニズムの違いなどから、気象庁は南海トラフ巨大地震との直接的な関連を否定するが、専門家は警戒を怠らないよう注意を促している。
関連調査の基準外
「懸念されている南海トラフ巨大地震が起きる可能性が、ただちに高まったとはいえない」
政府の地震調査委員長を務める平田直・東京大名誉教授(観測地震学)は地震発生後、産経新聞の取材にこう答えた。根拠は地震そのもののメカニズムの違いで、気象庁も同様の見方を示す。
静岡県沖の駿河湾から宮崎県沖の日向灘の沖合にかけて延びる南海トラフでは、フィリピン海プレート(岩盤)が陸側のユーラシアプレートの下に沈み込んでいる。2つのプレートの境界付近で蓄積されたひずみが限界に達すると破壊が起き、マグニチュード(M)8~9級のプレート境界型の大地震が起きると想定されている。
今回震源地となった豊後水道の周辺での海側プレートと陸側プレートの境界は、深さ約30キロ。今回の地震は、境界からさらに10キロほど下方の深さ約39キロの海側プレート内部で起きた。
平田名誉教授はメカニズムの違いに加え、今回の地震の規模が、巨大地震との関連を調査する基準に満たなかったことなどを踏まえ「プレートの固着状態にすぐに大きな変化を生じさせるとは考えにくい」との見解を示す。
直近の大地震から80年
ただプレート内部で起きる地震が、巨大地震発生のシグナルとなっている可能性に言及する専門家もいる。
梅田康弘・京都大名誉教授(地震学)は、8日に大隅半島東方沖で発生した最大震度5弱の地震を含め「フィリピン海プレート内での地震が最近相次いでいる」と指摘。今回の震度6弱という強い揺れは、海側プレート内部での地震としては「珍しい」とも語った。
14世紀以降、南海トラフでは90~150年の間隔で大地震が繰り返し起きている。直近の昭和の東南海・南海地震から約80年が経過しており、政府の地震調査委員会は、今後30年以内の発生確率を70~80%としている。
平田名誉教授は「南海トラフの大規模地震は前触れなく起きる可能性があり、日頃から注意してほしい」と話し、梅田名誉教授も「自治体や住民は危機意識を持って防災強化を続けるべきだ」としている。
防災・減災計画見直しも
政府は1月の能登半島地震で浮き彫りになった課題も踏まえ、防災・減災計画の見直しを進めている。
政府が平成26年に策定した南海トラフ巨大地震の防災基本計画では近畿、中部地方を中心に最大約32万3千人の死者が出ると想定し、令和5年度末までに想定死者数を8割減らす目標を設定。主な対策として、建物の耐震化▽津波避難ビルの整備▽火災の延焼につながる木造住宅密集地の解消-を挙げ、国や自治体などが取り組んでいる。
昨年4月には有識者らの作業部会がこの10年間の対策を踏まえて被害想定の見直しに着手し、政府は今春、新たな減災目標の設定を予定していたが、1月の能登半島地震を受けて延期した。被災地で浮き彫りになった避難所運営や物資の調達・支援などの課題を計画に反映させる方針だ。
能登半島地震の被災地支援で職員を派遣した大阪市も、防災対策の見直しを検討。横山英幸市長は18日、記者団に「職員が被災地から課題を持ち帰っており、物資の備蓄や避難所の態勢整備に反映したい」と述べた。(黒田悠希、五十嵐一、宇山友明)
南海トラフ
東海から四国、九州東部の太平洋側に延びる水深4千㍍級の浅い海溝。日本列島が乗る陸側プレート(岩板)の下にフィリピン海プレートが沈み込む場所で、マグニチュード(M)8級の東海・東南海・南海地震が100~150年間隔で発生する。1707年の宝永地震のように3つの地震が連動して巨大化するケースや、揺れは小さいが津波が大きい津波地震が起きる可能性もある。
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