夏のスタミナ源の一つ、ウナギ。しかし稚魚のシラスウナギは漁獲量が減少し、ウナギ料理の価格を押し上げる要因に。そんな中「ランチで気軽にウナギを食べられる価格に」との目標を掲げ、シラスウナギの人工生産に取り組んでいる研究施設が鹿児島にある。

老舗ウナギ店にも値上げの波が…

2024年7月24日、一年で最もウナギが注目される「土用の丑の日」。鹿児島市の老舗ウナギ店「うなぎの末よし」でも酷暑の中、客の行列ができていた。

鹿児島市の老舗ウナギ店「うなぎの末よし」
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75席ある店内は開店直後から満席。店では通常の約2倍のウナギを準備して対応した。「おいしいです」「元気が出るといいですね、暑い夏も」と評判も上々。

しかし2024年、ウナギの仕入れ値は2000年の約4倍、過去2番目の高値となった。奥山直博社長は「できるだけお安く提供したいなと思っているので、夏は暑いですけれども、ウナギを食べて元気を出していただけたら」と話す。

今、国内で消費されるウナギのほとんどは養殖ウナギだ。ウナギといえば静岡・浜松のイメージが強いが、実はウナギの養殖量日本一を誇るのは鹿児島だ。

ウナギの稚魚・シラスウナギ

その養殖ウナギのもととなるのがシラスウナギで、鹿児島でも毎年冬になると、シラスウナギ漁が行われる。しかし、国内の漁獲量は減少傾向が続く。

鹿児島でも1970年代の3000kgをピークに、ここ15年は1000kgを下回る状況で、漁獲量の減少がウナギの価格を押し上げる一つの要因となっている。

うなぎの末よしでは、2023年4月の値上げで「松」の値段が初めて3000円を超えて3250円になり、2002年と比べ900円も上がった。奥山社長によると、仕入れ価格は2023年が一番高く、2024年は2番目と高値が続いている。しかし、客には少しでも安くウナギを提供したいと、価格を抑える努力を続けているという。

稚魚の人工生産へ!研究施設を取材

シラスウナギの減少が続く中、県内ではシラスウナギを人工生産しようという研究が進んでいる。鹿児島市から南へ550km離れた南国の島・沖永良部島で、シラスウナギの人口生産に取り組む新日本科学(本社・鹿児島市)の研究施設を訪ねた。

人工ふ化に成功した「第一号」の“ウナコ”

研究施設では、新日本科学 水産事業部 沖永良部研究室長の宇都宮慎治さんと、1匹のウナギが出迎えてくれた。ウナギが入っている水槽には「第一号」の文字が。このウナギは最初に人工ふ化に成功した仔魚(シラスウナギ)から大きくなったもので、「ウナコ」という名前でかわいがられている。

そもそも、人工でシラスウナギを生産するとはどういうことなのか?

産卵~シラスウナギになるまでの過程を人工的に行う

自然界のウナギは、太平洋の西マリアナ海嶺付近で産卵し、卵からかえると「レプトセファルス」と呼ばれる赤ちゃんの状態からシラスウナギに形を変え、日本にたどり着く。人工生産とは、この産卵からシラスウナギに至るまでを人工的に行うことを指す。

2019年に開設された研修施設を、宇都宮さんに案内してもらった。
まずは、「催熟室」という部屋。こちらには、卵を産ませるための親ウナギが飼育されていた。

シラスウナギの人工生産は、飼育しているメスウナギから採卵するところから始まり、その卵にオスウナギの精子をかけて受精させる。その後、ふ化させた赤ちゃんを育てるのが「仔魚室」だ。

シラスウナギになる前の赤ちゃん“レプトセファルス”

部屋の中に入ってよいか尋ねたところ、シラスウナギに成長させる最重要エリアということで撮影はNGだった。しかし今回は特別に、シラスウナギになる前の赤ちゃん、レプトセファルスを見せてもらった。ふ化から200日ほどたって、シラスウナギに変態する前の大きさだという。

レプトセファルスから成長したシラスウナギ

さらに別の水槽へと進むと、そこには成長したシラスウナギが。思わず興奮して「これがシラスウナギですか?」と尋ねると、宇都宮室長は「200尾ちょっとぐらいはいます」とうなずいた。そう、正真正銘、沖永良部の研究室で生まれたシラスウナギだ。

開設初年の2019年は10尾の生産にとどまったが、その後は一気に生産数を増やし、2022年は280尾、2024年度は1万尾以上の生産を目標にしている。しかし、実用化には課題もある。設備投資やコストの問題だ。

実用化には設備投資やコストの問題が

宇都宮室長によると、実験室レベルでの成績は上がってきているが、この施設の方法では、採卵や餌やりなどにどうしても人手が必要で、シラスウナギを1尾生産するためには、3000円~4000円の費用がかかってしまう。天然のシラスウナギの取引価格の全国平均は約500円。現時点では人工生産はかなり割高だ。

とはいえ、人工シラスウナギの生産が成功しているのは事実。宇都宮室長は「大きくするまで育ててみて、場合によっては試食して食用に耐えられるか検証している」と話す。

人工ウナギのお味は…

2023年5月には、関係者を招き人工生産で育てられたウナギの試食会が開かれたという。

今回、記者も特別に、島内の飲食店で人工ウナギを試食させてもらった。
運ばれてきた、うな丼。その見た目は、普段私たちが食べている養殖のウナギと全く変わらない。

特別に試食させてもらった「人工ウナギ」

そして味は…。口に入れたとたん、ふんわりとやわらかい身を感じ、味も養殖ウナギと遜色ないおいしさだった。

大量生産への準備や餌やりの自動化によるコスト削減など、実用化にはハードルが多いシラスウナギの人工生産。私たちがウナギを安く食べられる日は来るのだろうか?

新日本科学・水産事業部 沖永良部研究室長の宇都宮慎治室長

宇都宮室長は、「新日本科学の社長の目標として、サラリーマンがランチでうな丼にするかラーメンにするか、選べるぐらいの価格になるまで生産するのが一つの目標」と語った。具体的に何年かかるかは今のところ言えないが、実現不可能な目標ではないという。

「うなぎの末よし」の客に、ウナギが安く食べられるようになる日が来るかもしれないと話すと、「それはうれしいですね。毎日でも来ますよ」と顔をほころばせた。

人工シラスウナギの大量生産、その道のりは遠くても、着実に一歩ずつ進んでいる。ウナギの養殖量日本一の鹿児島でも、その歩みをしっかりと見守っていきたい。

(鹿児島テレビ)

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