話す際、滑らかに言葉が出ない『吃音』について理解を深めてもらおうと、一日限定のカフェが熊本市にオープンした。スタッフを務めるのは吃音と向き合う若者たち。自分の言葉で思いを伝えようと、接客に奮闘する姿に密着した。
発話障害の一つ『吃音』とは
7月7日に熊本市中央区にある、くまもと清陵高校教育センターの教室に一日限定のカフェがオープンした。その名も『注文に時間がかかるカフェ』。話す際に言葉が滑らかに出ない『吃音』の症状を抱える若者3人がスタッフを務める。
この記事の画像(13枚)吃音は、発話障害の一つで、全国に120万人いるとされている。主な症状は3つで、いずれも話す時に、音や言葉を繰り返してしまう『連発』、一部の音を引き伸ばす『伸発』、それに、言葉が詰まってしまう『難発』がある。幼少期に発症することが多く、その大半は、自然に治癒するとされている。
しかし、成人後も症状が残る人がいて、国の研究機関の調査では、その約7割が生まれ持った体質に原因があるという。
幼い頃から吃音に悩んでいたという奥村安莉沙さんは「オーストラリア人の男性も同じように言葉がうまく話せないが、身振り手振りで接客をしていて、とても愛されていた。スラスラ話せなくても接客ができる方法があるんだと思った」と、留学先のオーストラリアでの体験がきっかけで、『注文に時間がかかるカフェ』を企画し、3年前から全国各地で催していて、熊本での開催は初めてだ。
リーダー・嶋本さんが開催を企画
スタッフのリーダーで、吃音が原因で中学校時代には不登校を経験したという嶋本一平さんは「(去年)8月までは吃音を受け入れられなかったのですが、参加してから受け入れられるようになった。吃音を面接の最初に公表するように心がけた」と話し、専門学校に通っていた2023年に就職活動の面接で「自分だけ思うように話せない」と悩んでいたという。
そんな時、福岡で開かれた『注文に時間がかかるカフェ』にスタッフとして参加したことがきっかけで、吃音との向き合い方が変わったという。
この春、熊本県内の企業に就職し、エンジニアとして働く嶋本さんは、吃音に悩む当事者を支えようと、自らが企画する形でこのカフェを地元・熊本に持って来た。嶋本さんのほかに、吃音に悩む大学生と高校生の2人がスタッフとして参加した。
上津原さん「何かが変わるんじゃないか」
高校2年生の上津原崇仁さんは「なかなか友達がつくりづらかった。ここで頑張ってみたら何かが変わるんじゃないかと希望を抱いて(参加した)」と話す。
開店準備をする3人は、吃音当事者ならではの悩みを教えてくれた。嶋本さんは「コンビニで買いたいものがあっても、から揚げや肉まん、ピザまんは避ける」と話し、「買いたい商品があっても、店員にそれをうまく伝えられないため、対面での購入は苦手だ」と教えてくれた。
3人は、カフェに来てくれる人のために「温かい目で見守ってください」、「母音がとくに苦手です」とメッセージを書き、それをエプロンに貼り付け、いざ開店だ。
藤本さん「言葉が出なくて泣いた」
この日は子供から大人まで合わせて44人が来店。人前でのおしゃべりが苦手な3人も、接客する中で自然と会話が弾んでいく。
大学2年生の藤本莉緒さんは「何歳ですか?」と来店客の子どもに話しかけると「6歳」と答えた。その子も波はあるが年中のときから吃音だと話し、藤本さんは「(私も)年長ぐらいのときに吃音だと自覚した。幼稚園の学芸会で演劇をしたときに、最初の言葉が出なくて泣いた」と話した。
嶋本さんは「吃音の人を目の前にすることはあまりないと思うのですが、必死にみんな隠していて、僕もその一人。そういう人がいるのを分かってほしい」と話した。
カフェには吃音に悩む親子から「中学校はどうでしたか?」や「吃音の説明はしましたか?」などと聞かれると、上津原さんは「吃音には悩まされましたが、からかってくるような人はいないと思います。(説明は)しました。優しく接してくれる人を大切にするといいんじゃないかなと」と自身の経験を話すと、「最後まで諦めずにすることはやっぱりいいことだなと思うし、自分も頑張ろうと思いました」と前を向いて答えてくれた。
『吃音』当事者へ寄り添い理解深める
自分のペースで、そして、自分の言葉で客をもてなしたスタッフ2人は、苦手意識があった人前でのおしゃべりも少し好きになったようだ。
藤本さんは「回数を重ねるごとに吃音について理解をしてくれる人と、お話しするのがすごく楽しくて。(言葉が)つっかえることは悪くないと再確認できて自信がつきました」と話し、上津原さんも「吃音があることで得られるものをずっと探していて。その答えが見つかったような気がします。様々な人たちとコミュニケーションを取って、色々な悩みを共有していきたいなと思います」と話した。
当事者の悩みに寄り添い、吃音への理解を深めた『注文に時間がかかるカフェ』。3人の今後の人生にとって、かけがえのない時間となったようだ。
(テレビ熊本)
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