夏本番。子供たちも夏休みに入り、家族で旅行やアウトドアに出かける人も多いだろう。そこで気を付けてほしいのが、ブヨ(ブユ、ブト)による虫刺されだ。全国の山間部に生息し、春から秋にかけて出る虫だが、刺されると猛烈な痒みに襲われる。
この記事の画像(5枚)そして、こじらせると「結節性痒疹(けっせつせいようしん)」という状態になってしまい、2カ月程度から数年悩まされる場合もあるという。実は筆者もブヨに刺されて結節性痒疹を発症し、2~3年痒みに悩まされた。
前編の記事ではブヨに刺されないための方法を専門家に聞いたが、後編では、ブヨに刺された場合の応急処置と、結節性痒疹になってしまった場合の対処について、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学の室田浩之教授に聞いた。
(前編:痒みがしつこい“ブヨ”はもうこりごり!虫よけ成分の「ディート」「イカリジン」は何が違う?正しい対策を専門家に聞いた)
応急処置はステロイドの塗り薬
――ブヨに刺されるとどうなる?
蚊と比較すると非常に強い痒みと炎症が生じます。
刺された後の反応も異なります。蚊の場合、刺された直後にプクッと膨らみ、痒みにも比較的すぐに気が付くのですが、ブユの場合は刺された直後はそこまで症状が強く出ず、数時間くらいたってから痒みが出て気づくことが多いです。
――刺された場合、どのような応急処置をしたらいい?
ブユやブユらしきものに刺された場合、皮膚科専門医を受診することをお勧めします。その前にできる応急処置としては、炎症を抑えるステロイドの塗り薬を使うのが一番いいでしょう。今は市販薬でもステロイドが入った塗り薬があります。
それでも痛痒さが我慢できない場合は、保冷剤などを局所にあてて痒みが収まるまで紛らわせるといいでしょう。
漫然としたステロイドの外用は避ける必要があるので、1週間程度外用しても治らない、あるいは悪化した場合は使用を中止し、皮膚科専門医を受診してください。
こじらせると「結節性痒疹」に?
――痒みが続いているのに皮膚科に行かずにいるとどうなる?
初期の段階で炎症を抑える適切な治療ができずに患部をかき続けると、「結節性痒疹」という状態なってしまう場合があります。
結節性痒疹は激しい痒みが起こる、非常に治りにくい症状です。
結節性痒疹に至る過程は、かいて皮膚を傷つける→傷を治す反応が起こる→痒みが起こる→かいて皮膚を傷つける…を繰り返すことで、どんどん患部が硬くなり盛り上がっていきます。それが直径1cmくらいに成長してしまうと、結節性痒疹が完成してしまいます。
こうなると、ステロイドの塗り薬ではなかなか痒みが収まりません。
――どれくらい痒い?
ある皮膚科の先生は「野蛮な痒み」と表現しています。この表現は、時間を問わず痒みが襲ってくるという特性を表しています。というのも、痒みは夜間に襲ってくることが多く、日中や何かに熱中しているときは抑えられていることが多い。ところが、結節性痒疹の痒みは昼夜問わず強く出るのです。
かくことによって集中が乱されるのみならず、人前でかいてしまうという行動や、見た目が気になってしまうという点も心理的にもストレスになってしまいます。
なお、私の印象では、蚊よりもブユに刺された場合のほうが結節性痒疹になりやすいと思います。
治療は2カ月以上かかることも
――どんな治療法がある?
ファーストステップでは、テープ剤のステロイドを処方することがあります。患部の上から貼ることでかきこわしてしまうのを防ぐことができます。それでも治りがよくない場合は、新しく保険適用になった注射薬の使用を検討します。この注射薬は、既存の治療でうまくいかなかった結節性痒疹に効果が確認されています。ほかには、マイナス180℃の液体窒素を患部に当て、かさぶたにして自然に取れるのを待つという治療もあります。
結節性痒疹は治りにくい症状ですが、今はいくつも選択肢があります。
――どれくらいで治る?
個人差はありますが、患部が1cmくらいになり結節性痒疹が完成してしまうと、ステロイドの塗り薬を処方して、2カ月くらいは様子を見ます。それでも治りが悪ければ次の治療ステップに進みます。中には数年単位で悩まれている方もいらっしゃいます。
最近は治療の選択肢が増えたとはいえ、やはり結節性痒疹になってしまうと治療に時間もお金もかかってしまいます。ブユに刺されたら、なるべく早めに皮膚科専門医を受診するのが一番でしょう。
ブヨに刺されて痒みが治らないのに適切な治療を受けないと、結節性痒疹になり長く痒みに悩まされることになる。刺されないことが一番だが、もし刺されてしまったらステロイドの塗り薬で応急処置をして、なるべく早く皮膚科専門医を受診してほしい。
(前編:痒みがしつこい“ブヨ”はもうこりごり!虫よけ成分の「ディート」「イカリジン」は何が違う?正しい対策を専門家に聞いた)
室田浩之(むろた・ひろゆき)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学教授。日本皮膚科学会理事。日本皮膚免疫アレルギー学会副理事長。アレルギー、膠原病、発汗異常症の診療に力を入れる。最近では痒みのメカニズム、発汗異常症に興味をもって基礎・臨床研究を行っている。
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