人類が初めて手にした鉄器は、果たしてどんな姿だったのか-。そんな考古学のロマンを再現するプロジェクトが立ち上がった。企画したのは鉄の歴史を研究する愛媛大学アジア古代産業考古学研究センター長の村上恭通教授。人類と鉄との出合いは4~5千年前、隕石(いんせき)のなかでも鉄を多く含む「隕鉄」を加工して装飾品などを作ったのが始まりと考えられており、プロジェクトでは実際に隕鉄から鉄器を作り、その輝きや強度、製造技術の水準などを検証する。4月26日までクラウドファンディング(CF)で寄付を募っている。
鉄器の起源は隕石
日本において鉄の文化は紀元前3~4世紀ごろ、朝鮮半島を経由して中国大陸からもたらされたとされる。では、中国大陸の金属文化はどこから伝わったのか。そのルーツをたどると約4~5千年前のウクライナやロシア・ウラル地方など黒海周辺に行き着くという。
鉄の伝播の歴史「アイアンロード」を研究する村上教授によると、当時は前期青銅器時代に分類され、人類は主に青銅製の武器や農具などを使用していた。しかし、ウラル地方の遺跡では円盤状やかぎ状の鉄器が見つかっており、成分を分析すると「隕鉄」を用いたものと判明した。
また、約3300年前の古代エジプトのツタンカーメン王の墓から隕鉄で作られた短剣や枕などの副葬品約10点が見つかっており、当時は希少品として価値が高かったことが裏付けられる。
こうしたことから、鉄器は誕生当初から「王や呪術師など、当時の権力者がその力を示すために身に着けていたのではないか」と村上教授。「空から落ちてきたという神秘性や希少性、銅とは違う重さ、打ち鳴らした音などが当時の人々の心を奪ったに違いない」と思いをはせる。
レプリカ製造で検証
ただ、ツタンカーメン王の墓で発掘されたものを除くと、最古級の鉄器はどれも腐食が進んでさびに覆われている。そのため、装飾品や祭礼品など権威の象徴として用いる際に重要視されたはずの鉄特有の輝きや打ち鳴らした際の音などを追究する余地がない。
また、隕鉄の加工には当時主流の青銅器製造技術が転用されていたが、その技術水準も判明していないという。村上教授はこれらの謎を解き明かそうと、隕鉄製の鉄器を再現する「人類・鉄創世記プロジェクト」を企画することにした。
プロジェクトでは、実際にウラル地方の隕鉄を使用。これまで発掘調査で確認された短剣や円盤、装飾品などのレプリカをプロジェクトメンバーの刀匠や鍛冶師が製造する。当時使ったとみられる青銅製の槌で鍛え、どの程度素材を加熱すれば同品質のものを作れるのか科学的に検証する。
初めて手にした感動再現
プロジェクトに必要な費用480万円については、3月7日からCFを開始。すでに目標額を達成しており、現在は第2目標の700万円に向け引き続き寄付を受け付けている。700万円を達成できれば、鉄器と青銅器を組み合わせた前期青銅器時代の「銅鉄複合器」も復元できるという。
レプリカは順調にいけば来年秋ごろに完成する予定。愛媛大学内のミュージアムで展示するほか、実際に触れられるようなイベントで活用する計画という。
村上教授は「人類が初めて手にした鉄器がどんな質感で、どうやって作られたかを解明することができる」とプロジェクトの意義を強調。同時に「レプリカを作ることで、実際の鉄器の重さ、輝き、色、音を体験できる。人類が初めて鉄器を手にしたときの感動を再現したい」と話している。(前川康二)
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寄付はCFサイト「READYFOR(レディーフォー)」で4月26日午後11時まで受け付ける。
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