調剤体験をする参加者=鈴鹿市南玉垣町の鈴鹿医療科学大白子キャンパスで2024年8月8日午後2時46分、原諒馬撮影

 院内薬局や病棟などで業務にあたる病院薬剤師が三重県内で不足している。背景には県内就職を選ぶ人が少ないことに加え、薬局やドラッグストアよりも給与が安いことが挙げられる。県内の大学で唯一、薬学部がある鈴鹿医療科学大や県は人材の確保のためにも病院の待遇改善などに向けて動いている。【原諒馬】

 「とっても面白い。薬剤師って仕事にちょっと興味を持った」。鈴鹿医療科学大白子キャンパス(鈴鹿市南玉垣町)で8日、市内の児童を対象に薬剤師体験のイベントが開かれ、調剤体験した小学4年の北村望さん(9)がうれしそうに話した。小学4~6年の児童約30人が参加し、教員らは「少しでも薬剤師に興味を持ってもらえたら」と口をそろえた。

 イベント開催の裏には、県内で働く薬剤師のなり手不足がある。厚労省の統計によると、2020年の人口10万人あたりの薬局・病院の薬剤師数で県は全国で7番目に少ない171・7人。中でも薬局よりも給与が低く仕事量も多い病院の薬剤師は36・4人で全国で2番目に少ない。

 特に過疎化が進む東紀州地域では病院薬剤師不足が深刻とされる。県薬務課は現状について、薬剤師を志望する若者が県外で就職する「地理的要因」と、ワークライフバランスを重視して病院より薬局への人気が高まる「環境的要因」があると分析している。

 08年に薬学部を創設した鈴鹿医療科学大も同様だ。松阪市出身で5年生の宮田樹奈さん(22)は「他の医療従事者と協力しながら、より患者さんの力になれる」と話すように、県内病院への就職を希望する学生もいる。

 ただ、多くの学生は給与などさまざまな面を考慮し、就職している。22年度の卒業生の進路を見ると、薬学部の1期生を送り出した13年度と比べて、ドラッグストアを含めた薬局への就職は11人増えて54人だった一方で、病院に勤めることになったのは4人減って22人だった。近年は調剤業務を拡充し、初任給が病院よりも約10万円高い場合もあるとされるドラッグストアへの就職人気が高まっているという。

薬剤師不足の現状を解説する大井一弥・鈴鹿医療科学大薬学部長=鈴鹿市南玉垣町の鈴鹿医療科学大白子キャンパスで2024年8月8日午後4時58分、原諒馬撮影

 「その一因には奨学金がある」と大井一弥・薬学部長は指摘する。厚労省の調査によると、薬局薬剤師は45・8%が奨学金を借り入れている。06年度に薬学部が4年制から6年制に移行したことで、一般的に私立大の薬学部では卒業までに1000万円以上がかかるとされ、「学生側の重い負担になっている」という。卒業後の不安を軽減し、病院薬剤師を選択しやくするためにも、大井薬学部長は「病院側は待遇面の現状について考慮してもらい、改善してほしい」と訴える。

 県は3月に策定した「薬剤師確保計画」で、26年度までに県内各地で確保すべき病院薬剤師の数を設定した。病院と薬局との間での労働条件や待遇の是正を目的に、診療報酬などの改定について国へ要望する方針を示すなど、厳しい現状を改善するため、施策を進めようとしている。

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