児童養護施設出身者らの支援を続けている東京都在住の社会活動家、山本昌子さん(31)は、親から子への虐待について、「親が悪い」と断罪するだけでは問題の解決にはならないと訴える。自身も児童養護施設出身の山本さんがそう考える理由とは?
山本さんは親のネグレクト(育児放棄)により、生後4カ月で乳児院に保護され、2歳から18歳まで児童養護施設、その後19歳まで自立援助ホームで生活した経験を持つ。
施設を卒園した後、家族同然に接していた職員らに会えなくなり、深い孤独感を味わった。
そんな経験から、児童養護施設や里親家庭の出身者、虐待経験者らが集まれる「居場所」をオンラインや東京都杉並区の自宅で提供しているほか、経済的に困窮する若者には支援物資を送る活動もしている。
虐待を受けて育った若者を支援する中で感じてきたのが「親が悪い、だけじゃない」という思いだ。
8月には虐待経験者5人へのインタビューをまとめた著書「親が悪い、だけじゃない 虐待経験者たちのREAL VOICE」(KADOKAWA)を出版した。
山本さんが取り上げた5人はインタビュー当時19~24歳で、児童相談所の関わりがあったものの、親から「言うな」と脅されたり、転校などが嫌で施設入所を拒んだりして、保護が遅れたケースだった。
なかには成人した後も、実父から性的虐待を受け続けている女性もいた。
その女性は小学4年生ごろから性的虐待が始まり、母親も知っているが、見て見ぬふりをしてきた。
にもかかわらず、女性は母親のことを「大切にしたい」と語り、経済的な問題などから父から離れられない母親をかばった。
虐待に加担している親を「好き」と言うのは理解しがたいように思えるが、山本さんは「特別な事例ではない」と説明する。
母親の交際相手から性的虐待を受けた別の女性のインタビューから、その気持ちの一端が読み取れるという。
その女性は、児童相談所の職員が母親を批判すると、母をかばいたい気持ちが芽生え、怒りや恨みといった気持ちを抑え込んでしまっていた。
別の一時保護所の職員から「どちらの気持ちも持っていていい」と言われたことで、気持ちが救われたことを明かしている。
「虐待が明らかになれば、『親が悪い、育てられないのになんで産んだんだ』と親を責め立てるのは簡単です」
山本さんは言う。虐待は、被害者の子どもだけでなく、こうした虐待に加担するなどした親も孤立を深める構図があるという。
「とがめられればとがめられるほど子育てできない自分を許せないという気持ちを募らせ、誰にも相談できないまま悪循環に陥る」
虐待が行われる家庭の抱える問題は何なのか。親から虐待を受けながら育った子どもたちはどのような人生を送り、どんな壁にぶつかっているのか。虐待が起きる家庭や被害者の子どもが本当に必要としている支援は何なのか。
詳細なインタビューで5人が語った「本音」は、問題を解決するためのヒントを浮かび上がらせる。
山本さんは「虐待の犠牲になっている子どもは全体から見ればほんの少しかもしれない。でもその子たちの人生をなかったことにしてほしくない。虐待を受けた当事者の声に耳を傾けることが、未来を変えるきっかけになると信じています」と話した。【御園生枝里】
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