保護猫を抱きながら、「猫に罪はないんです」と語る渡辺愛子さん=福島県郡山市の「保護猫カフェ love.lab(ラブ・ラブ)」で2024年9月11日、根本太一撮影

「可哀そう」だけじゃダメ

 20~26日は動物愛護週間。福島県郡山市のNPO法人「保護猫カフェ love.lab(ラブ・ラブ)」代表の渡辺愛子さん(48)はボランティア活動を始めてから今年で10年になる。保健所に収容された猫を預かり、育て、里親に無償で引き渡し、これまでにつないだ生命は約1500匹に上る。昨今の物価高が施設運営を追い詰めており、保護猫を巡る課題を聞いた。【聞き手・根本太一】

 ――物価高にはどのように対応していますか。

 ◆キャットフードだけでなく、ミルクやトイレ用の砂代、光熱費も値上がりしています。活動に理解のある方々の寄付で賄えてきましたが、もう限界というか「首の皮一枚」。インターネットで広く善意を募るクラウドファンディング(CF)を始めました。最低目標は300万円で30日が期限です。昨年もCFで250万円をいただいたのですが、はからずも医療費に200万円もかかってしまい、心苦しいけれど300万円に引き上げさせていただきました。

 ――医療費に200万円もかかるのですか。

 ◆獣医さんによると、薬代も高騰しているとか。私たちが郡山市保健所から無償で預かる年間150~200匹の多くは赤ちゃんです。目が見えない子もいます。小さいから体調を崩しやすい。生後1カ月が過ぎると親猫の免疫が切れて風邪をひきやすくなる。目やに、鼻水、発熱。薬剤や点滴が必要になります。MRI(磁気共鳴画像化装置)を備えた救命獣医病院が県内にないので、命を救いたいと仙台市まで車を飛ばすこともあって。MRI検査費は1回何万円もかかるんです。

 ――保護猫の現状はどうでしょうか。

 ◆22年度に、県内の保健所には1635匹が収容されました。うち約450匹は私たちの団体などの活動を通じて里親さんに譲渡されたんですけど、1200匹近くは殺処分されてしまいました。福島は、全国ワーストクラスです。

 ――福島県で殺処分が多いのはなぜでしょうか。

 ◆私たちも、施設の規模から全て受け入れるのは難しいんです。飼いきれずに捨ててしまうのは論外ですが、例えば、おなかをすかせた「野良」に餌を与える。可哀そうだ、自分は良いことをしているんだと思うのでしょう。その気持ちは分かります。猫ちゃんは、庭先に居着くでしょう。可愛いです。でも、たいていの人は避妊(雌)や去勢(雄)に無頓着で。猫は繁殖力が強いから子どもが増え、やがては周辺住民などからの苦情で、行政によって殺処分されてしまう。人間の都合というか、猫に罪はないのに。

 ――その避妊と去勢については行政も対処しているのではないでしょうか。

 ◆避妊5000円、去勢2000円を補助している矢吹町が県内の優等生ですね。「野良でも、いったん餌を与えたら飼い主」と見なして助成するんです。郡山市などにも制度はあるけれど、条件が複雑で。制度がある市町村も少なく、残念ですが、福島は「後進」県という印象です。

 ――そもそも活動を始めたきっかけは何ですか。

 ◆11年の6月、土砂降りの朝でした。息子を幼稚園に送った帰り、ひき逃げされたのか、交差点の真ん中で動けない猫がいたんです。血だらけで、動物病院に運んだら横隔膜破裂と下半身まひ、失明と診断されて緊急手術。費用は10万円ほどでしたが、獣医さんが私に問うんです。「この子をきちんと育てていく覚悟はありますか」。胸の奥をえぐられた思いでした。「可哀そう」だけじゃダメなんだ。もともと動物は好きでしたが、それから保護猫を迎え入れ始めました。そのうちネットで、個人で面倒を見るのもいいけれど、すてきな飼い主(里親)さんに出会える保護猫カフェがあると知って、14年に「ラブ・ラブ」を開きました。

 ――運営面の悩みはありますか。

 ◆最近テレビでやっていると聞く保護猫の番組は、悲しくて見られないですね。それと、CF頼りは心苦しいんですよ……。この夏、日本政策金融公庫の融資(借金)で、中古の軽のキッチンカーを買いました。目立つようピンク色に塗り、猫の絵を描いてイベント会場で出店しています。せめてスタッフ4人分の人件費は稼ごうと。同時に「待ち」でなく「外」に出て行く啓発活動も兼ねています。猫の顔をかたどった大判焼きなどを販売しています。見かけたら、買いに来てくださいね。

記者の一言

 渡辺さんは「夢がかなうのなら、何もせずゴロゴロできる休みの1日が欲しい」と話す。里親に引き取られた猫が、愛情を受けてまん丸と優しい目つきになるのを見るのが元気の源だという。「猫に罪はない」。その言葉が頭から離れない。

渡辺愛子(わたなべ・あいこ)さん

 郡山市出身。郡山女子短大卒。福島日産自動車ショールーム勤務などを経て、母の生花店と父の麻雀荘を手伝った。1匹の猫との「運命の出会い」から保護猫活動を始める。クラウドファンディングとカフェの営業時間などはホームページ(https://www.love-lab.jp/)へ。感染症予防のため猫の直接の持ち込みは受け付けない。

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