「快眠ルーム」は全2室。「いとし」は久留米がすりのパネルが飾られている=泰泉閣提供

 旅の目的は、上質な睡眠を得ること。新たな旅の形として「スリープツーリズム」が注目を集めている。2022年ごろから、欧米のホテルが眠りに特化した部屋やサービスを提供したのがきっかけで、日本の旅行業界でも取り入れが始まりつつある。福岡県の旅館では、こだわりの部屋と温泉で日本らしいスリープツーリズムを提供していると知り、プレスツアーに参加してきた。

 スリープツーリズムでは、寝具や空調など客室の睡眠環境を整える。それに加え、軽い運動やアクティビティー、マッサージなどを取り入れ、快眠を導くプログラムが組まれている。

 福岡空港から高速バスで約1時間、筑後川に面する「原鶴温泉」(福岡県朝倉市)は肌の角質を落とす効果のあるアルカリ性と、メラニンを落とすとされる硫黄成分を併せ持つ。トロトロした泉質で「ダブル美肌の湯」とPRしている。宿泊した温泉旅館「泰泉閣」は、こだわった寝具と原鶴温泉の良さを生かした「快眠ルーム」を提供している。

泰泉閣でも導入されている「New コアラマットレス BREEZE」=コアラスリープジャパン提供

 泰泉閣は23~24年にかけて、客室の一部をリニューアルした。その目玉になるプランを模索していたところ、スリープツーリズムに着目。以前、宿泊客から「ぐっすり眠れました。どこの枕を使ってますか?」「気持ちの良い布団でした」と言われることもヒントに、より寝具にこだわった。

 泰泉閣広報の林里美さんに案内された「快眠ルーム」には、シングルベッドが3台並ぶ。寝具はオーストラリア発祥の「コアラマットレス」を導入した。日本国内で展開するコアラスリープジャパン株式会社(本社・東京都渋谷区)によると、設置されているマットレスは「New コアラマットレス BREEZE」。吸湿速乾性が高く、通気性が高いウレタンフォームを使用し、身体を各部位で支える構造にすることで、振動範囲が狭まるという。自由に寝返りがしやすいのが特徴だ。枕は堅さが異なる3種類の枕が常備され、好きなものが選べるようになっている。

「快眠ルームプラン」で提供される夕食=泰泉閣提供

 より質の高い睡眠を得るための注意点は? 「眠る2時間前に温泉に入って自律神経を整える」とのこと。アドバイス通り、夕食前に入浴を済ませる。地元の野菜や肉などの特産を使った夕食は、アユの塩焼き、和牛と地鶏の鉄板焼きを堪能した後、いつもなら「もう1杯」となるところ「カラオケなど興奮する行為、深酒は安眠を妨げる」と言われ、いつもの旅行よりも早めに部屋に戻る。

 部屋にはアロマディフューザーが常備されている。香りはベルガモットやオレンジなど、快眠を促すブレンドで、チェックインした際には、すでにたかれていた。ベッドサイドの壁には、地元の小石原焼きのレリーフが飾られて、シックな作りだ。自宅と比べてシンプルな部屋と、アロマオイルの香りに導かれ、食欲も満たされたせいか、自然と眠たくなってくる。

「快眠ルーム」は全2室。「月下」は小石原焼きのレリーフが飾られている=泰泉閣提供

 マットレスは「低反発・高反発を組み合わせた独自の体圧分散」(コアラ社)と同じ物だが、3種類の枕があるので別々の枕を置いて順番に寝てみた。固めの枕が好みなので、一番しっくりときた「コアラピロー」を選び、真ん中のベッドで眠ることにした。

 自宅では、畳の上にウレタンマットの敷布団で寝ているせいか、体がマットレスにほどよく沈み込む感じがする。昼間に筑後川でやったウオーターアクティビティによるほどよい疲れや、その後に入った温泉の効果からか、マットレスに寝転ぶといつの間にか眠ってしまっていた。普段は寝付いてから4時間後ぐらいに起きてしまうのだが、旅館特有のピシッとアイロンのかかったリネンやアロマオイルの効果からか、気がつけば朝食の時間までぐっすりと眠れた。

実は「不眠大国・日本」

 日本人の睡眠時間は、世界的にも短いことが経済協力開発機構(OECD、33カ国)の調査で判明している。21年の調査では、日本人の平均は最短の7時間22分だった。加盟国の平均8時間28分と比較して1時間以上短い。19年の厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では、1日の平均睡眠時間は、男性の32.7%、女性の36.2%が「6時間以上7時間未満」が最も高かった。

 人気ゲーム「ポケットモンスター」を手掛けるポケモン(東京都港区)が、スマートフォン向け睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」を使う利用者の睡眠時間調査でも、同様の結果だった。7カ国の利用者を調査したところ、プレー開始後7日間の平均睡眠時間は、7カ国平均で6時間28分。このうち日本は平均より36分短い5時間52分と最も短かった。国別では、①フランス(6時間47分)②イギリス(6時間40分)③カナダ(6時間39分)④ドイツ(6時間34分)⑤アメリカ(6時間29分)⑥イタリア(6時間16分)――の順。フランスと日本では1時間近い差が出た。

観葉植物が青々と茂るジャングル風呂。熱帯雨林の中で入浴しているようだ=泰泉閣提供

三つの温泉を日替わりで

 今回宿泊した泰泉閣には3種類の大浴場があり、うち2種類は日替わりで男女入れ替えとなっている。

 1日目の女性用は「千歳の湯・かっぱの湯」。「ダブル美肌の湯」は確かにとろみがあり、気持ちがいい。筑後川流域に残る「カッパ伝説」にちなみ、露天にはカッパの置物が置かれており、ユーモラスな雰囲気だ。

筑後川のかっぱ伝説にちなんで名づけられた「かっぱの湯」。カッパの像が多数設置されている=泰泉閣提供

 2日目は「ジャングル風呂」が女性用に。室内にもかかわらず、植物がジャングルのように植生されており、熱帯雨林にいるような気分になる。六つの大小の浴槽があり、すべり台付きのお風呂も併設されている。

 女性専用の「雅の湯」は複数のシャンプー・コンディショナー・ボディーソープが並ぶ「シャンプーバー」を設置。好きな種類を選べる。

 また、泰泉閣にはボディケアルームも併設。安眠ルームのプランには30分の施術が付いており、温泉、マッサージ、安眠を思う存分満喫できる。【川端智子】

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