家族に囲まれ、幸せそうな女性の写真。彼女は15年ほど前まで、万引きを繰り返していた。
【動画】「スーパーはパラダイス」祖母の葬儀の時にも喪服で万引き 犯行を止められない病『クレプトマニア』
「スーパーはパラダイス」
「化粧品も100個、靴もたくさん、いろいろ。腐るほど全部盗んだ」
衝動的に万引きを繰り返してしまう精神疾患「クレプトマニア」。やめられなかった万引きをしなくなった理由とは。
■やめられない万引き 「クレプトマニア」とは
この記事の画像(8枚)Aさん(50代):あれ(カート)は持たないんです。押すのはやらなくて、かごを手で持ってる。あれごと(カートで)昔は出ていたから。
大阪府に住むAさん(50代)は、15年前まで万引きを何度も繰り返していた。窃盗の疑いで6回逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けたこともある。
Aさんが15年前に診断されたのは、「クレプトマニア」。
クレプトマニアとは、経済的な困難のない状況で、個人的には不必要な食品を万引きするなど、衝動的に物を盗んでしまう精神疾患だ。
「スーパーはパラダイス」
「化粧品も100個、靴もたくさん、いろいろ。腐るほど全部盗んだ」
「万引きをしに、はしごしている」
そんなAさんは15年前から現在まで、再犯をしていない。
Aさん(50代):その時は簡単に取れたんで、『こんなもんか、誰も見てないや』って。そこからずっと取ってました、毎日毎日。『今度は見つからないように取ろう』。反省は全くせずに、一日これをするから生きてる感じ。このために生きてる。
Aさんは25歳で結婚。2人の子供にも恵まれた。
一人目の子供を産んだ後、みるみる体重が落ち、「痩せる」喜びを感じたことで、体重を増やさないために食べないという摂食障害に陥った。
一時は29kgまで体重が減った一方で、空腹に耐えかねてスーパーでパンを1個万引き。1度やると、歯止めが利かなくなったという。
Aさん(50代):おなかが空いても食べないんですけど、その時ぽっと取った1つ(の万引き)が、ずるずると。
■祖母の葬儀の時にも喪服で犯行に…家族の苦しみ
残されたのは、家族を苦しめる現実だった。
Aさん(50代):おばあちゃんのお葬式(の際)にも、喪服で脱走して取りに行ってたし。母はさっき『知ってたよ』って言ってた。その時、喪服で脱走するくらいでも抑えられなかったし、子供たちの入学式、卒業式、修学旅行はどっかの留置場に捕まってたし。
Aさんの母親:子供たちがあの環境でどうして過ごしてたのかなって思うとかわいそうで。孫たちも私がほとんど育てましたけど、素直でいい子に育って。
そこから抜け出せたのは、6回目に逮捕された時についた弁護士から、病院を紹介されたからだ。
「赤城高原ホスピタル」は、クレプトマニアの治療に特化した病院。Aさんはここで2年入院した後、今まで1度も万引きをしていない。
退院した後も3カ月に1回ここに通い、クレプトマニアに悩む患者たちに自らの経験を伝え、励ましている。
Aさん(50代):今、私の中ではちょっぴり万引きをやめている状態を続けていっている感じです。決して回復、やめたと思ってない。いつ落とし穴に引っかかるか。だから落ちてるものも拾わないし、触らないし、迷ったら買う。簡単なこと。
今もクレプトマニアに悩む患者たち、およそ30人がここに入院している。
患者:人間関係もうまくいかなかったし、仕事もうまくいかなかった。それから万引きをするようになってしまって、それが生きがいになってしまってやめられなくて。
患者:散々、刑務所に4回も行って、やめたくないしやめられないし。お金がもったいないからとか物がタダで欲しいからとか、そういうことじゃなくて。それもありますよ。でも、それの根っこの方には『こんなすごいことができちゃうんだぞ、自分』っていうところだったり、ドキドキ、ハラハラするスリルが快感になったりだとか。
赤城高原ホスピタルでは、冷蔵庫の上に防犯カメラを設置してポスターを貼ったり、職員が見張る中で売店で買い物をさせたり、回復に向けた「訓練」を行っている。
院長は、赤城高原ホスピタルと関連するクリニックでは、これまでに常習窃盗患者が2500人以上いて、クレプトマニアは病気として治療していくべきだと話す。
赤城高原ホスピタル 竹村道夫院長:数年前に(病院に)来ていて、今は治療してなくてまた再犯してるとか。最近の人では、15年以上ぶりに来て、その間に3回服役していたという人がいましたね。心神耗弱ではないから、犯罪は犯罪なんだけど、バランスが必要で、治療しない限りは良くならない、再犯が防げないから、場合によっては治療をする期間をちゃんと確保して効果を見てから、判決をしてもいいんじゃないかなという風に思う。本人が病気のことを忘れても、病気の方が本人を忘れないというかね。何かの時に、ひょっと顔を出す。
■訓練で症状を抑えるしかない「クレプトマニア」
なぜ「クレプトマニア」になってしまうのか。
京都大学の大学院では患者の脳波を測定するなど、科学的に解明しようと研究が続けられている。
Q.病気の人と病気じゃない人を、どう区別するのですか?
京都大学大学院 後藤幸織准教授:そこもすごく難しい話になっていまして、明確に区切りができない。何にも問題ない人と依存症の人の間は連続している。依存は依存だけど、すごく軽い。自分の意思でやめようと思ったらやめられる人もいれば、自分ではどうしようもなくなってしまうという人もいて。
警察庁によると、2023年度の刑法犯のうち、窃盗犯が占める割合はおよそ7割。過去5年間を見ても、半分以上の割合を窃盗犯が占めている。
この中には自分が「クレプトマニア」と気づいていない人も多くいるとみられる。
また、「クレプトマニア」は、完全に“治る”わけではなく、訓練で症状を抑えるしかないのが現実だ。
京都大学大学院 後藤幸織准教授:薬で、インフルエンザを直接なくすタミフルみたいな薬もありますし、風邪の症状を抑える、鼻水とか咳を抑える薬も、(治療薬は)2通りありますよね。依存症の治療というのは風邪薬の方と一緒なんですよ。症状を抑えれば何とかなるかな。メカニズムとして、ウイルスを消そうという薬とは違う。
Aさんは15年前から万引きをしていないが、物を取りたい衝動はずっと近くに潜んでいる。
Aさん(50代):半額のやつでもすごく気になっちゃって。誰かに買ってほしくなくて。それをやらないように訓練して。迷ったら買う。AかBか悩んだらもう、ぱっと買う。AとBを両方買おうとか、ちゃちゃっと決めることにしてる。
こうして万引きをしたい衝動を抑えられているのは、失ったものの大切さに気づいたから。
Aさん(50代):『治りました』じゃなくて、“取らないことを続けていくこと”を努力することが答えかな。取ることに振り回されることもばかばかしいって。もっといろんな人に出会えたし、今、本当に幸せですね。
自分にとって大切なものは何か…。これからも、万引きをしたい衝動と戦いながら生きていく。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年9月24日放送)
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