多くの人にとって、冷凍庫は食べ残しや雑多な食品を保管するブラックホールのような役割を果たしている。食べかけのアイスクリームから感謝祭の残りものまで、あらゆるものが冷凍庫に置かれがちだ――ときには永久に。
冷凍庫は余分な食品を収納するのに便利な場所だが、混乱のもとになりがちで、使い方を誤ると、食中毒の原因にもなる。
例えば、熱々の残りものをそのまま冷凍庫に入れていいのかと気になっている人もいるだろう。また、部分的に結晶化したマフィンはまだ食べても大丈夫かといった疑問もあるだろう。さらに、解凍と再冷凍を何度か繰り返した正体不明のレッドソースはどうするべきかと悩んでいる人もいるはずだ。
冷凍した食品の安全性と冷凍庫の衛生管理について、専門家のアドバイスを見ていこう。
温かい料理は冷ましてから冷凍すべきか?
食品を室温に放置しておくと、病原体の汚染や繁殖のリスクが高まる。安全上の理由から、「食べ残しは2時間以内に片付けるべきです」と食品安全微生物学者のキース・シュナイダー氏は話す。シュナイダー氏は米フロリダ大学で食品科学と栄養学の教授を務めている。
このルールは生肉や魚介類、卵、生鮮食品など、冷蔵または冷凍が必要な食品では特に重要だ。米食品医薬品局(FDA)によれば、これらの食品は「室温に2時間以上、室温が30℃を超えている場合は1時間以上放置」してはいけない(※編注:日本では食品衛生法でそれぞれの保存方法の基準が定められている)。
安全上の観点からは、「温かい料理を冷まさずに、そのまま冷凍庫に入れても問題はない」とFDAの担当者は述べている。
温かい料理をそのまま冷凍庫に入れれば、庫内の温度が上昇する可能性はあるものの、家庭料理を家庭用冷凍庫に入れる場合、「一時的にわずかな影響が生じるだけだ」と米テキサスA&M大学の教授で、食品微生物学と食品安全性を専門とするアレハンドロ・カスティーヨ氏は話す。
さらに安全を期すのであれば、料理が55℃ぐらいに冷めるまで待つか、温かい料理を「適切な通気と放熱ができる、10センチメートル四方くらいの容器に小分けするべきだ」とシュナイダー氏は指摘する。
それでは、冷蔵庫に保存していて、すぐに食べる予定はない残りものの場合は? カスティーヨ氏によれば、長期保存のために冷凍庫に移すのはまったく問題がなく、「むしろ、そうするべきです」
ただし、「冷凍しても、時計の針を戻すことはできません」とシュナイダー氏は警告する。具体的には、日付に注意したい。例えば、賞味期限が4日間で、すでに冷蔵庫で2日間保存した食品は、再解凍で冷蔵庫に戻したときには、あと2日間しかもたない。
解凍して食べても安全な冷凍期間は?
例えば、冷凍ベーグルの場合、時間とともに品質は落ちるかもしれないが、冷凍庫で何年も安全に保存できるので安心してほしい。冷凍中の食品が冷気にさらされて脱水することで起きる「冷凍焼け」は、霜の層を引き起こすことがある。食品が腐ったわけではないが、味や食感が落ちる可能性はある。
食品を適切に扱って保存すれば、マイナス18℃に保たれた冷凍庫は一種のタイムカプセルとして機能し、あらゆる食品を永久的に保存できる。FDAによれば、「冷凍によって、ほとんどの細菌は死にませんが、繁殖を止めることはできます」
おそらく冷凍のテクニックより重要なのは、食品と台所の衛生管理だろう。「汚染された食品を冷凍すれば、食品の中にあるすべてのものを保存することになります」とカスティーヨ氏は話す。不要な二次汚染を避けるため、台所と冷蔵庫を清潔に保ち、生食用と調理済みの食品を分けることをカスティーヨ氏は推奨する。
また、食品を適切に包装すれば、「冷凍焼けなどの化学的な変化を未然に防ぐことができ、品質を保持できる」とシュナイダー氏は述べている。
そして、食品の安全性に関して、「3℃(以下)であれば、病原体は繁殖しません」とシュナイダー氏は補足する。実際、「2年間、捨てずにいたフィレミニョン(牛ヒレの一部)を発見したことがあるのですが、真空包装されていたため、おいしく食べることができました」
とはいえ、冷凍庫に非常食を詰め込むべきではない。特にファンで庫内に冷気を送っている一般的な間冷式の冷凍庫では、食品がぎっしり詰まりすぎた環境では食品が凍るまでの時間が延びてしまう。「冷蔵庫や冷凍庫にものを詰め込みすぎると、空気の流れが悪くなり、冷えにくくなります」とシュナイダー氏は説明する。
食品を解凍する際の安全対策は?
よく言われていることだが、細菌の繁殖を防ぐため、解凍は可能な限り素早く均一に行うべきだ。FDAは冷蔵庫と冷水、電子レンジという3つの主要な解凍方法を推奨している。冷水や電子レンジで解凍したものはすぐに調理し、調理台に置いておくなど室温で解凍してはいけない。
「たとえ解凍中でも、肉の外側が温まり、内側は冷たいままの状態にしたくありません」とシュナイダー氏は注意を促す。このような状況では、外側は細菌の繁殖に適した温度に達し、内側は解凍を続けることになる。この「危険地帯」を避けるため、冷水を張った容器に食品を入れ、一定の温度で解凍することをシュナイダー氏は提案している。
FDAによれば、時間の制約がない場合、一定の温度で安全に解凍するには冷蔵庫が最適だという。ただし、「すぐに食品を使いたいときは、凍ったままの食品を調理するという選択肢もあります」とFDAは補足している。
解凍した食品を再冷凍してもいいのか?
専門家によれば、解凍と再冷凍には注意が必要だ。食品は解凍するたび、微生物が繁殖し、毒素をつくり出す「危険」な温度帯に入る。
「冷蔵庫で解凍した食品は調理しなくても安全に再冷凍できるが、冷水や電子レンジで解凍した場合、調理してから冷凍庫に戻すべきだ」とFDAは述べている。
絶対的な基準があるわけではないが、「あまり頻繁に冷凍と解凍を繰り返すべきではありません」とシュナイダー氏は話す。厳密な回数は解凍のスピードや方法によって異なるものの、シュナイダー氏は解凍と再冷凍を2〜3回にとどめることを推奨している。「特に解凍に時間がかかると、細菌が繁殖し始めます。そして4℃を超えたら、時計が動き出します」
停電時、冷凍庫の食品はどれくらいもつのか?
冷凍庫のドアを閉めておけば、停電時でも庫内の食品は少なくとも数日はもつ。
「冷凍庫の内部が4℃を超えるまでには数日かかります」とシュナイダー氏は話す。「4℃を超えると、細菌や病原体の繁殖を心配しなければいけません」
この場合、冷凍庫に食品を詰め込みすぎていたほうが有利かもしれない。「ものがぎっしり詰まっていれば……大量の氷や食品が庫内を冷たく維持してくれます」。FDAによれば、食品は満杯の冷凍庫で最長48時間、半分埋まった冷凍庫で最長24時間もつ。
FDAは冷凍庫に温度計を設置し、内部温度を確認することを推奨している。停電から復旧したときに4℃を下回っていれば、庫内の食品を再冷凍しても安全だ。
文=Leah Worthington/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年8月31日公開)
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