いよいよ食欲の秋の到来。刺身や寿司を食べる機会も増えるかもしれない。そこで注意したいのがアニサキスによる食中毒だ。

秋に旬を迎える魚も多く、食卓にも脂の乗った刺身などが並ぶことだろう。そんな時には調理前にひと工夫を加えてほしい。魚食普及推進センターの早武忠利さんにアニサキス対策にもなり、好きなタイミングでおいしい刺身が食べられる冷凍技を伝授してもらった。

魚食普及推進センターの早武忠利さん
この記事の画像(5枚)

なお、養殖魚などのアニサキスリスクが低い魚の考え方や飲食店の見分け方は別の記事で紹介しているので、そちらを読んでほしい。

(関連記事:「冷凍」「養殖」とあれば大丈夫?アニサキスを避けるための生魚の選び方と外食時の注意点)

冷凍はアニサキス症予防にも

早武さんは魚の魅力にハマり、魚を釣ったり市場で仕入れたりしては自宅でさばき、刺身を作り続けて25年以上。長年の実践の中で得た魚食知識の普及につとめてきた。

そんな早武さんは、鮮魚をたくさん入手して食べきれない場合は、日常的に冷凍庫を活用している。

「コツを押さえて冷凍すれば、家庭でも2~3カ月は冷凍保存可能です。ストックがあれば、疲れた日でも5分程度で食卓にお刺身が出せるのでお勧めです。わが家では休日はさばいた魚を刺身で食べ、平日は冷凍ストックのお刺身を毎日のように食べる事もあります。アニサキス対策にも有効なので、少しでも心配な場合は冷凍が安心です」

家庭の冷凍庫は一般的に-18℃程度までにしか冷えないという(画像はイメージ)

ただし、アニサキス対策とする場合は、温度帯と冷凍期間に注意が必要だと言う。

「厚労省は、アニサキスが死ぬ条件として『-20℃で24時間』冷凍することとしています。冷凍庫に入れてからではなく、冷え切ってから24時間がポイントです。一方で家庭用冷凍庫の温度はJIS規格で-18℃以下。さらに、ドアの開閉で温度が上がるため、-20℃で24時間冷凍できているか判断しづらいのです。本当は家庭用冷凍庫で何時間という条件が示されていれば安心なのですが、機種や開閉条件などを考えると一律に言うことは難しいようです。私の場合、過去の経験から家庭用冷凍庫に入れてから1週間以上を目安として自己責任として食べていますが、これまで一度もアニサキスに当たったことはありません」

押さえておきたいポイント

早武さんによれば、アニサキス対策として冷凍する際に知っておきたい知識は以下のとおりだ。

・魚の中心温度が-20℃になってから24時間以上冷凍する必要があり、家庭用冷凍庫なら1週間以上冷凍する。
・開け閉めで庫内温度が上がるので、開閉は必要最小限に。
・冷凍庫はミッチリ詰めておくと庫内温度が上がりにくくなる。

そして、おいしく長持ちさせるポイントもある。

「何も対策をせず冷凍すると、空気に触れた部分が酸化と乾燥により『冷凍焼け』してしまい、食感や味が落ちてしまいます。特にイワシなどはすぐに酸化します。そこで、チャック袋を用意し、空気を抜いてピタッと密閉し、空気に触れないようにするのがポイントです」

コハダをチャック袋に入れて空気を抜く(画像提供:魚食普及推進センターHP)

方法は以下のとおり。

・切り身やサクをチャック袋に入れ、空気を抜いて袋をピタッと密着させ冷凍する。魚の表面に水分があるほうが密着できるため、水を少量足してもいい。
・冷凍保存する(アニサキス対策の場合は1週間以上。2~3カ月程度はおいしく食べられる)。
・流水で数分間解凍する。中が多少凍っているくらいで切って盛り付けるとお皿の上で解凍されてちょうどよい。

アニサキスは酢で死なない!

さらに、酸化・乾燥を防ぐのに早武さんがお勧めする方法として、ヅケにしたり酢で締めたりして下味をつけてから冷凍する方法がある。調味料が身を酸化と乾燥からガードすることで保管期間も長くなる。

例えば、コハダの場合は以下のとおり。

・さばいたコハダを、塩で身を締めてから酢に漬ける
・チャック袋に酢とともに入れる
・空気を抜いてチャックをして冷凍

コハダを解凍し、切って皿に盛りつけたところ(画像提供:魚食普及推進センターHP)

「なお、酢で締めただけではアニサキスは死なないので注意してください。アニサキスの成虫は、酸性のクジラの胃袋の中で生きています。アニサキスの食中毒で特に注意が必要なのは自家製のしめサバです。年や地域にもよりますが、アニサキス食中毒の半分程度が冷凍していないしめサバだったという事例もあります。家庭ではなるべく1週間程度冷凍してから食べましょう」

アニサキス対策にもなり、ストック食材としても役に立つ刺身の冷凍技。安全に豊かな魚食を楽しむために活用してみてはいかがだろうか。

参考:魚食普及推進センターHP(https://osakana.suisankai.or.jp/health_safe/90)

前回の記事を読む
「冷凍」「養殖」とあれば大丈夫?アニサキスを避けるための生魚の選び方と外食時の注意点

■蚊にゴキブリ、ダニ、カメムシ…秋は“害虫”の季節!?特集記事の一覧はこちら
刺されたら?駆除は?“害虫”対策

早武忠利(はやたけ・ただとし)
一般社団法人大日本水産会魚食普及推進センター事業課長、水産庁長官任命「お魚かたりべ」、キッズキッチン協会理事、官民連携フォーラム江戸前ブランド育成PT副PT長、名誉海老大使。琉球大学卒、東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。専門は保全生態学、生態学、形態学。著書に、『ハヤタケ先生の魚食大百科』(少年写真新聞社)、『科学で考える食育絵本 魚の教え』(上・下/群羊社)監修。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。