スーパーの棚からコメが消えてから2カ月。
新米が出回り、ようやく売り場にコメが戻ってきたが、今度は高騰した価格に手が出ない。令和のコメ騒動の余波はいつまで続くのか。
コメの生産や流通に詳しい日本国際学園大学・荒幡克己教授に話を聞いた。
■日本のコメは冷害には強いが暑さには弱い
この記事の画像(6枚)日本国際学園大学 荒幡克己教授:今回のようなコメ不足は、これからも起こりやすくなります。
と言いますのも、日本の稲作というのは、ずっと昔から「冷害」に悩まされてきました。つまり、冷害に対する対応は、ある程度はできているのです。
しかし、昨年のような高温の夏というのは、あまり慣れていません。産地の多くは、暑さによって問題が生じるというのはほとんど経験していないのです。
とはいえ、地球温暖化はどんどん進んでいますから、これからは、高温の影響による生育不良や品質低下といった、さまざまな問題が非常に多くなってくるでしょう。
そういう意味では、今回を教訓として、備蓄のあり方も含めて、対策を立てなければいけません。
■「令和のコメ騒動」は農水省の見通し誤りが最大の要因
日本国際学園大学 荒幡克己教授:この数か月のコメ不足の原因は色々とありますが、やはり、農水省が見通しを誤ったのは大きいと思います。予測しがたい部分があったのも事実ですが、もう少し早めに手を打つことはできたのではないかと思います。
コメの在庫は、大きく「政府の備蓄米」と「民間の在庫」に分けられ、両方とも農水省が数字の管理をしています。
「政府の備蓄米」は、蓄え用。許可しないと流通できないもので、100万トンを基準にしています。今は少し少なくて91万トン程ですが、十分な量です。
「民間の在庫」は、物流に流れているもの。産地の農協の倉庫にある分や、流通している分も含めて、今、どのぐらいあるかというもので、180万トンぐらいが適切とされています。民間の在庫は、ここ数年、200万トンぐらいありました。
少し多いので180万トンまで下げましょうと言っていたら、6月末時点で156万トンと、過去最低水準まで下がってしまったのです。
実は春頃、民間の在庫が少ないことに気づきました。しかし、「不足気味ではあるけれども、深刻というほどではない」、そう考えてしまったのです。
ところが実際にスーパーの棚からコメがなくなってしまいましたからね。やはり、気づいた時点で備蓄米を放出して調整すべきでした。
■来年も同じ時期にコメ不足の恐れ 早めの対策を!
日本国際学園大学 荒幡克己教授:通常、新米が本格的に流通するのは10月頃からです。しかし今年はこの状況でしたから、9月頭から店頭に並んでいます。
新米のおかげでコメ不足は落ち着いたように見えますが、これは令和5年米が早くなくなった分、令和6年米を前倒している状況です。
このままでは、来年の端境期にまた同じように不足するのではないか、非常に心配です。その年のコメの状況は、年末頃にははっきり分かりますから、早めに手を打つことは可能です。
今回のようなことが起こらないよう、全体をしっかりと見極め、足りなければ早めに備蓄米を放出するなどしなければいけません。
■「備蓄米」放出はすぐにはできない…
日本国際学園大学 荒幡克己教授:備蓄米の放出は、店頭に並ぶまでに数週間かかります。品不足がすぐに解消されるワケではないのです。
8月末に大阪府の吉村知事が備蓄米放出を要請しましたが、政府は首を縦にふりませんでした。庶民の声の反映という意味では、吉村知事の行動は間違っていません。
しかし、あのタイミングで放出を決めたとしても、実際に店頭に並ぶのは、新米の出回り時期と重なって、大きな効果は期待できなかったと思います。
仮に、大臣の即断で備蓄米の放出を決められる仕組みにしたとして、3、4日短縮されるぐらいではないでしょうか。備蓄米の放出は、さまざまな手続きに時間がかかります。
審議会で放出が決定され、その後、広告し周知した上で競争入札などが行われます。お米を産地から流通させなければいけませんし、結局、出回るのに半月程度はかかります。
ですから、やはり早くに気付いて、早めに手を打つことが必要なのです。
■業者と農協で“値上げ合戦”コメの高騰、今後どうなる?
日本国際学園大学 荒幡克己教授:米の流通ルートは主に2つ。農協が農家からコメを集めて消費地に供給するというのが中心ですが、それ以外に、少量を集めて販売する業者もいます。そういう業者が、お米を集めるために、相場観を反映して高い価格を提示しているのです。
そうなると、農協も、お米が確保できないと困りますから、高い価格を提示せざるを得ない。そういう“値上げ合戦”みたいな状況になってしまっているのです。
消費者にとって非常に良くないことですが、今、だいたい3、4割値上がりしていますよね。ここまで高い状態は、いずれは収まります。
とはいえ、飼料代などのコストが上がっているので、それらを加味すると、元の値段には戻らないと思います。例えば5キロで2000円だったお米が、今は2800~3000円ぐらいになっている。それが、2300円前後ぐらいに落ち着くのではないかと予想しています。
いつぐらいに鎮静化するかは見通しが難しいですが、年明けぐらいかなと思っています。
(日本国際学園大学 荒幡克己教授)
■やはり日本人は「コメ」
食の選択肢はたくさんあるが、「令和のパン騒動」とはならない。やはり「コメ」はわれわれにとって本当に大切なものだ。「コメが買えない」といった事態にならないよう、政府にはしっかりしたコメ政策を行ってほしい。
そして、農家の方たちにこれからもおいしいお米を作ってもらうために、消費者も多少の値上がりは受け入れなくてはならない時代にきているのかもしれない。
(関西テレビ 2024年10月5日)
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