シンガー・ソングライターの優里さんがパニック障害と広場(ひろば)恐怖症と診断されたことを公表した。飛行機に乗ると涙が出ることがあり、眠れない状態が続いたという。
広場恐怖症は2度の優勝経験がある女子プロゴルファーの菅沼菜々選手も公表しているが、いったいどういった病気なのか。心理カウンセラーの資格を持つ明星大学心理学部の藤井靖教授に聞いた。
「逃げられない」「助けてもらえない」恐怖心
ーー「広場恐怖症」とは?
広場恐怖症は、特定の場所で強い恐怖や不安を感じて日常生活に支障をきたす病気です。例えば、車やバス、電車、飛行機などの“公共交通機関”や、駐車場や市場、ショッピングモールなど“広い場所”。あるいは、映画館や狭い部屋など“囲まれた場所”。また、行列や雑踏など“人混み”の中で強い恐怖や不安を感じる疾患です。
一方、家の外に“1人でいる時”も起こります。「自分に何か起こっても誰も助けてくれない」といった不安や恐怖心から発症することがあります。
「逃げられない」または「助けてもらえない」という不安のどちらか、あるいは両方あると症状は起きやすくなります。飛行機は長時間乗っていなくてはいけないので、苦しくなってもその場からすぐに逃げることができないため、心臓がドキドキしたり、血中のアルカリ性が強くなって過呼吸につながり、悪循環に陥ります。
ーー人によって恐怖を感じる場所は違う?
違います。広場恐怖症は「agoraphobia(アゴラフォービア)」といいますが、アゴラはギリシャ語で「広場」という意味です。ヨーロッパは広場を中心に放射線状に街が作られていて、広場という言葉は単純に「広い場所」ではなくて、“人が集まる場所”の象徴として使われている言葉です。
特に公共交通機関だと苦しくなった時に逃げられないとか、誰も助けてくれないといった感覚を伴って症状が出やすいです。
症状は過呼吸や冷や汗、動悸
広場恐怖症はどういった人がなりやすいのか。藤井教授によると、遺伝的な要素も強く、かかる人の割合は100人に1~3人で、精神疾患としては非常に多いという。
ーー原因は?
これまでの研究では遺伝的要素が結構強いと言われていて、不安や恐怖を抱きやすい特性がもともとある場合があります。また、子供の頃に何らかのトラウマ的なものがあったり、日々のストレスの積み重なりや疲れの蓄積も発症の原因と考えられています。
最近ではSNSによる誹謗中傷なども原因となっています。自分の投稿に対して批判的な書き込みがあると、それがあたかも全ての人の意見であるかのように錯覚してしまうことがあります。生涯有病率(ある人が一生の内にその病気にかかる確率)は1~3%と言われているので、100人に1人ぐらいは発症してもおかしくない、比較的多い精神疾患です。
ーー発症しやすい人は?
電車や飛行機などで一度ネガティブな経験をしてしまうと、それがまた起こるのではないかと不安に思う人はなりやすいです。365日の中のたった1日だとしても、不安に思うとさらに症状が出やすくなる病気なので悪循環になります。
自覚症状で一番多いのは過呼吸や冷や汗、動悸などで、それらによって自分の生活に支障がある場合は医療機関を受診することをおすすめします。
投薬と認知行動療法
広場恐怖症はどのように解決していけば良いのか。薬で治療を行う方法と心理療法の2つの選択肢があるという。
ーー治療法は?
SSRIという、脳内の神経伝達物質を整える薬を飲むことが最初の選択肢となります。投薬治療だけではうまくいかないこともあるので、その場合は非薬物治療、具体的には認知行動療法という世界的に治療エビデンスを持っている心理療法を行います。
これは苦手な場面に少しずつ直面していく方法で、例えば、苦手な飛行機にいきなり何十時間も乗るのではなく、飛行機に乗った自分をイメージするとか、まずは短い時間飛行機に乗ってみるとか、誰かに付き添ってもらうなどして、小さいステップを踏み、最終的に克服したい課題にチャレンジするという方法です。それにはまずリラクゼーション法という、自分の心や体をリラックスさせる技法を練習します。
ーーリラクゼーション法はどういったもの?
人は「安心」と「不安」という2つの感情を同時には感じられないので、まずチャレンジする前に「呼吸法」や「筋弛緩法」で体をリラックスさせてから挑戦します。そうすると不安が起こりにくくなり、その経験を脳が再学習して、次に苦手な場面に臨む時も不安が低い状態で出来るようになり、良い循環が目指せる方法です。
呼吸法は「10秒呼吸法」と言いますが、3秒かけて吸って、4で止めて、5から10まで数えながらゆっくりろうそくを吹き消すように息を吐きます。人間は苦しくなると、ハッ、ハッ、ハッと息が浅くなり、より症状が悪化します。吐く息を長くすると心身が落ち着くので、これが一番簡単にできる方法だと思います。
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