性教育の必要性が叫ばれ始めてから時は経つが、依然として「いつから?」「どのように?」と悩む親が多い。そんな中、親子が一緒に性教育を学ぶイベント「Family Heart Talks」が都内で開催された。イベントに参加した日本産科婦人科学会専門医の坂本愛子医師、そして教育現場での経験を持つイベント運営者の大石美穂さんに、性被害から身を守るための知識と、親が抱える悩みや疑問について話を聞いた。
性教育は早期から段階的なアプローチで
まず、多くの親が抱えるのは「性教育をいつから始めるか?」という悩みだ。
ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、性教育の開始年齢を5歳から推奨している。今回のイベントは、主に3歳から8歳の子どもと保護者を対象としていて、親が子に性教育をしにくくなる思春期になる前に、幼少期から取り組むことで、親子双方の性教育に対するハードルを低くする狙いがある。
また「年齢に合わせて段階を踏んでいくのが効果的」と坂本医師は指摘する。性教育を早く始めると性行動が早まるのでは…という懸念もあるが、実際には「早期の性教育が逆に慎重な性行動を育む」という世界的なデータもあるそうだ。
“プライベートゾーン”を学び自分を守る
では、具体的にどのように性教育を始めればよいのか。
この記事の画像(13枚)坂本医師いわく「プライベートゾーン」と呼ばれる「体の大事な部分」(口と水着や下着で隠れる部分)を子どもに繰り返し伝えることが重要だという。
「幼い子は親と一緒にお風呂に入ることが多いですが、その時に『体の大事なところは、誰にも見せたり触らせたりしてはいけないよ』と伝えてほしいです」と語る。
こうしたことを学んでおくと、もしも不審者が近づいてきても「おかしい」と気づくことができ、性犯罪から身を守ることにつながるという。
また、警察庁の調べによると、10代以下が被害者になった性犯罪の認知件数は、2022年に2776件と2年前から増加傾向にある。万が一、自分の身に何かあった場合は、「NO(ノー)=イヤと言う、GO(ゴー)=その場を離れる、TELL(テル)=誰かに話す」ことも重要で、日ごろからこれらのことを親子で共有することも大切だと感じる。
家庭内では生理はオープンに
海外では、家庭内で生理についてオープンに話すことが多いという。
産婦人科の診察に夫が同席し「最近の生理は?」という医師からの質問に「旅行中の、あの時だよ!」と夫が即答するケースもあるそうだ。
夫婦で訪れても、夫は診察室に入らず外で待つこともある日本とは大違いだ。
また海外では、子どもにも生理について隠さない。
「お母さんや女の子は毎月つらい思いをしているんだよね、何かできることはある?」と小さな男の子が坂本医師に質問してきたこともあったそうだ。
生理は大人になって行く上での生理現象で、辛い時もあると子供が学ぶことで、将来大切な人を気遣うことにもつながる。「母親も生理を1人で抱えこまず『家事を手伝ってね』と家族に毎月伝えることで、次第にオープンになっていくのでは」と坂本医師は提案する。
生理中の入浴について迷ってしまう母親も多いと思うが、参考になりそうだ。
親が子どもにどのような対応をするか、どんな言葉をかけるか、それが子どもの将来に大きく影響していく…。性教育を学ぶ中でも改めて「子育ては重責だ」と実感する。
一方、あくまでオープンにするのは家庭内のみ、と伝えるのも必要だという。
性的トラブル防止には“同意の理解”が必要
性的トラブルとは性犯罪や性暴力のことで、年齢や性別に関係なく起こる可能性があり、特に同意のない性的行為は、犯罪として扱われることもある。また2023年、盗撮を処罰する撮影罪が新たに成立した。
被害者・加害者にならない為に、まずは「相手の体に同意なく触ることはよくない」と教えることが大切だと坂本医師は強調する。
子どもに“同意”を教えるには時間がかかるかもしれないが、例えば、お尻を指で突く“カンチョー”やスカートめくりなどの行為は、「遊びの延長のつもりでも、良くないこと」と淡々と伝えることが必要だ。また、体形について触れることも相手を傷つける事につながる、と繰り返し話していくことも必要だという。
そして、子ども同士のやり取りだけではなく、家庭でも「手をつないでいい?」など、親や大人が子どもに触れる時に、尋ねる習慣をつけると徐々に理解が深まるそうだ。
子どもは、自分の体が大切だと理解できると相手のことも大切に思い、尊重しあえるようになるという。
併せて、性的な犯罪をする人がいるから「プライベートゾーンを見せたり、触らせたりしてはいけないんだよ」と伝えることも効果的だそうだ。
坂本医師は、性犯罪や性被害の防止においても、性教育の重要性を理解してほしいと訴える。
今からできる家庭での性教育
イベント運営に携わり、保健体育の教員歴を持つ大石美穂さんは、学校での性教育には限界があると感じている。
「性教育は自分の心と体に向き合える重要な分野です。親がこのテーマをどう扱えばいいのかという疑問に答え、家庭での性教育のきっかけ作りにしたい」と語った。
そのためには、性にまつわる話を家庭内でタブーにしない環境作りが必要だという。
例えば、「赤ちゃんはどうやってできるの?」などの質問を子どもから受け、どう答えればいいのか戸惑ったときは、「調べて今度伝えるね!」と猶予を持たせた返事ができると良いとのこと。このような親の接し方で、子どもはシャットダウンされたようには受け取らず、再び同じような疑問を親に聞くことができるそうだ。
他にも、テレビの際どいシーンでは、 気恥ずかしかったとしても急に消すのではなく、「同意はとったのかなぁ」などと、“大きな独り言”を言ってみる。もし話せる機会があれば、「こうした大人のスキンシップの方法もあるけど、日本の法律的には性的同意年齢が16歳になっているので、15歳まではしない行動なんだよ」と説明できると理想的だという。
難しくてわからなくても、いつでも性について「なんで?」が聞ける状況、そしてその度に一緒に考える姿勢を大切にしてほしい。
また、プロジェクトの発起人であるモデルの鈴木えみさんは、娘さんにドライヤーをかける時間を会話の時間として活用しているそうだ。子どもとの会話から、これは「おかしい」と親が気づけるケースもあり「何かあった時にSOSを出せる環境を親が作っておくことが大切」と教えてくれた。
自分の体は自分だけの大切なもの。
私の母もそうしてくれたように 「あなたの心と体は、親である私にとってもとても大事で、大切にしてほしい」と我が子に語り続けたい。 性教育は子どもとどう向き合うかを考える大切な子育ての時間になるはずだ。
気になった事は一緒に学び、一緒に考えたいと強く思った。
(取材・執筆:フジテレビアナウンサー 生野陽子)
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