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<料理を食べて「レシピを推測」、音楽を聴いて「コード進行を解明」...そんな能力はどうすれば身につけられる? 成功者から学ぶ際も、聞くべき質問がある>

成功するために必要なのは「才能」か、「努力」かーー。

世界中で何度となく繰り返されてきた問いだが、偉業の達成には、もう1つ秘訣があるという。リバース・エンジニアリング、すなわち、「表面に現れていることの裏側を見て、隠れた仕組みを見出すこと」だ。

では、その「隠れた仕組み」を見つけるにはどうすればいいか。

大学教授で社会心理学者のロン・フリードマン氏は、「自分が成功者になりたければ、成功者たちの成功の秘訣を分解して再設計するのが近道だ。(成功者から)うまく話を聞きだすためには、3つのカテゴリーで質問するといい」と言う。

フリードマン氏は全米ベストセラーとなった著書『リバース思考 超一流に学ぶ「成功を逆算」する方法』(邦訳・かんき出版)で、リバース・エンジニアリングを余すところなく解説。同書から、一部を抜粋・再編集して紹介する。

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超一流の人が持つ「才能」と「努力」以外の能力

あなたも、非常に優れた「偉業」や、そうした偉業を達成するために必要な「能力」についての話を、これまで何度となく聞いたことがあるだろう。

偉業の達成には、まず「才能」によるものという見方がある。

これは、「人は誰でも何らかの強みを持って生まれ、そして自分の強みを発見してそれを職業に生かして開花させた人が各分野でトップに上り詰める」というストーリーになる。

もう一方が、偉業の達成は「訓練の賜物(たまもの)」であるという見方だ。

この視点では、「才能は偉業達成をほんの少し後押ししてくれるにすぎない」ということになる。本当に重要なのは、効果的な練習方法と人一倍努力する姿勢だという。

ところが偉業の達成には、もう1つ秘訣がある。あまり知られていないが、「スキル獲得と上達への近道」ともいうべきもので、芸術家や作家、料理人、アスリートから発明家、起業家に至るまで、あらゆる業界で超一流の人たちが驚くほど一般的に活用している。

それが「リバース・エンジニアリング」である。

リバース・エンジニアリングは、「表面に現れていることの裏側を見て、隠れた仕組みを見出すこと」だ。どのような設計になっているかを調べ、さらに重要なのが「そこからその改変方法を見出していく技術」だ。

具体的には、頬が落ちそうなほど美味しい料理を食べて「レシピを推測する」、美しい音楽を聴いて「コード進行を突き止める」、ある映画を観て「物語の展開構造をつかむ」などといった能力を指す。

このように分解することで偉業を達成した例は、文学や芸術からビジネス界まで、さまざまな分野で豊富にある。

たとえば、映画製作者のジャド・アパトーを例に取って考えてみよう。

ひとりの高校生が著名な大物たちに取材できた理由

アパトーは、『俺たちニュースキャスター』『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』『40歳の童貞男』など、当時最もヒットしたいくつものコメディ映画で脚本・監督・製作を担当してきた人物だ。

アパトーはどうやって自分の作品の製作技法を身につけてきたのだろうか?

それはアパトーが敬愛するすべてのコメディアンの優れた点を、体系的に紐解いて分析することによって得られたものだ。

アパトーの秘密兵器は、リスナーが1人しかいないラジオ番組だった。

アパトーは高校時代、お笑いの大ファンで、同年代の友人がロックスターに夢中になる中で、彼はコメディアンに夢中になっていた。お笑いのレコードを集め、お笑いのTV番組をもとに1週間の計画を立て、夏休みには地元のコメディクラブで皿洗いのバイトをした。

そしてほんの気まぐれで自分の学校のラジオ局に参加したとき、そこで彼は興味深いことに気づいた。そのラジオ局の高校生DJは、いくつもの大物バンドのインタビューに成功していたのだ。

アイデアが浮かんだのはそのときだった。だったら自分でラジオ番組をつくって、お笑い界の大スター一人ひとりから、キャリアについてのアドバイスをもらえばいい。

「エージェントや広報の人に電話して、僕はロングアイランドのWKWZラジオのジャド・アパトーだけど、彼らの顧客のコメディアンにインタビューしたいって伝えたものだよ。自分が15歳だってことは言わなかった。だって、コメディアンの代理人の大半はロサンジェルスにいるんだから、うちのラジオ局の電波がかろうじて家の駐車スペースを出たあたりまでしか届かないなんて、わかるわけがないんだから。それで僕がインタビューに出向いていって、ようやく騙されていたことに気づくってわけさ」と、アパトーはのちに書いている。

アパトーが聞き出した大物たちの「成功の秘訣」

この計画は非常にうまくいった。それからの2年間、アパトーはコメディ界の大物たちにインタビューし、どのようにしてネタを考えているか、どうやってエージェントを見つけたか、さらには有名になるための最適な方法まで、あらゆることを聞き出した。

インタビューには、ジェリー・サインフェルド、ギャリー・シャンドリング、ジョン・キャンディ、サンドラ・バーンハード、ハワード・スターン、ヘニー・ヤングマン、マーティン・ショート、(ウィアード・アル)ヤンコビック、ジェイ・レノが応じてくれた。

これらのインタビューでアパトーは3つのことを学んだ。

1.自分のスタイルを見つけて軌道に乗せるには7年かかる
2.3日と空けずパフォーマンスを行っていないと腕が鈍る
3.新人コメディアンが技術を磨くためにできることでいちばん重要なのは、できるだけ頻繁にステージに上がってステージ慣れすること

アパトーが録音したインタビューの多くは、いっさい放送されることがなかった。それもそのはず、彼はラジオ番組をつくる気など毛頭なかったのだ。

高校を卒業する頃には、アパトーは自身が「ブループリント」「バイブル」と呼ぶジョークのネタ帳を完成させ、自分のスタイルを磨いて、キャリアを築いていくための材料をしっかりと集めていた。

成功者にインタビューするのは、次に紹介する「正しい質問内容」を用意すれば、その成功の秘訣を探る効果的な戦略となり得る。ラジオ局のDJのふりをする必要もない。ブログやポッドキャストがこれほど急成長している今の世の中であれば、専門家と話をするのもさほど難しくないだろう。

成功の秘訣を探る効果的な3つの質問

専門家と話をするときは、3つのカテゴリーで質問を考えるといい。

それは「道のりの質問」「プロセスの質問」「発見の質問」である。

<道のりの質問>

「道のりの質問」は、2つの目標を達成するようにつくり上げる。専門家の成功への道のりを掘り起こすことと、新人の頃の経験を思い出してもらうことだ。何も知らないところから、今の地位に辿り着いた専門家の軌跡がわかれば、自分もその道を辿るためのヒントが得られる可能性が高い。専門家に、その道に入った当時のことを振り返ってもらうと、当時の考え方を思い出しやすくなるので、より有益な助言がもらいやすくなる。

専門家に道のりを尋ねる場合、次のような質問ができるだろう。

・誰(の作品)を読んで、見て、研究して、仕事を学びましたか?
・最初の頃、どんな失敗をしましたか?
・あとで大して重要ではなかったとわかって、あんなに時間をかけなければよかったと思うことはありますか?
・これまでの教訓から、自分はどのような指標に常に注意していなければならないと思いますか?

<プロセスの質問>

「プロセスの質問」は、専門家のやり方の核心を突くものだ。仕事を成功させるために、具体的にどのようなステップを踏んでいるのかを探ることで、彼らの仕事へのアプローチを明らかにすることを目指す。この質問の答えからは、複雑な仕事の組立が明らかになるので、リバース・エンジニアリングを行ううえで特に重要である。

なお、仕事のやり方についてあまり広範な質問をぶつけても、部分的な情報しか得られないことが多いことを覚えておこう。これまで見てきたとおり、専門家の頭の中では多くのことが無意識のうちに行われていて、自分の行動に意識が向けられていない。

したがって質問は一般的すぎず、具体的すぎないようにすることが重要である。

専門家にプロセスを尋ねる場合、次のような質問ができるだろう。

・あなたのプロセスに関心があるんです。最初にどんなことをするんですか? 次は?  そしてそのあとは?
・アイデアや戦略は、どんなときに湧いてくるんですか?
・計画はどのように立てていますか?
・(計画・製作・提案)するときの日々のルーティンは、どうなっていますか?

<発見の質問>

「発見の質問」では、専門家が最初はどのレベルを目標に掲げていたかに重点を置いて、今の視点で見たレベルと比較してもらう。予期しなかった質問に専門家の注意を向けることで、彼らに今のあなたと同じ目線に立ってもらい、キャリアを始めた頃には得られていなかった貴重な洞察について考えてもらえる。

専門家に発見を尋ねる場合、次のような質問をしてもいいだろう。

・振り返ってみて、いちばん驚いたことは何ですか?
・このキャリアをスタートさせる前に、知っておきたかったことは何ですか?
・予想していなかったことで成功するにはどんな要素が絶対に必要だとわかりましたか?
・今それをやるとして、やり方はどんなふうに異なりますか?

これらの質問で集めた情報は、人によって異なることを覚えておいてほしい。成功が保証されているたった1つの突破口を探しているわけではないし、そんなものは存在しない。解き明かしたいのは、尋ねる相手が成否を分けると考えている要素だけだ。



『リバース思考 超一流に学ぶ「成功を逆算」する方法』
 ロン・フリードマン 著
 南沢篤花 翻訳

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Ron Friedman(ロン・フリードマン)
受賞歴のある社会心理学者。ロチェスター大学、ナザレス大学、ホバート・アンド・ウィリアムス・スミス・カレッジの教授を歴任し、政治指導者や非営利団体、世界的に有名なブランドの多くにコンサルティングを行ってきた実績を持つ。研究に関する人気記事は、NPRやニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブ、ガーディアンなど有力紙のほか、ハーバード・ビジネス・レビュー、サイコロジー・トゥディなどの雑誌でも紹介されている。専門家がより健康で幸せで生産的に働くために、神経科学や人体生理学、行動経済学の研究を実践的な戦略に活用する学習開発会社「イグナイト80」の創設者でもある。デビュー作『最高の仕事ができる幸せな職場』(日経BP)は、Inc.誌の年間ベスト・ビジネス書に選出された。

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