日本でコアラの飼育が始まって10月25日で40年。この節目に合わせ、当時から飼育を続ける鹿児島市の平川動物公園が、「すごいコアラ!」と題して魅力を凝縮した書籍を製作した。愛らしいカットを交えた約200枚の写真とともに、地の利を生かした餌の調達や絶滅のおそれもある生態を紹介。「かわいいだけではないところも知って」との思いが詰まっている。
平川動物公園にコアラがやってきたのは1984年のことだった。70年代に国内がパンダブームに沸く中、鹿児島では「コアラを鹿児島に連れてくる会」が市民レベルで立ち上がり、10年近くにわたる熱心な誘致活動が実を結んだ結果、オーストラリアから雄2頭がやってきた。平川動物公園とともに、多摩動物公園(東京)、東山動植物園(名古屋市)で国内初の飼育がスタート。鹿児島では「コアラ音頭」まで流して歓迎した。来日した10月25日は「コアラの日」と制定されている。
この40年に平川動物公園で飼育されたコアラは通算105頭となり、現在、日本で一番多い18頭(雄8頭、雌10頭)を飼育している。長い歴史で蓄積されたコアラに関する情報を多くの人に知ってもらおうと企画されたのが今回の書籍だ。
コアラはオーストラリアの固有種で、平均寿命は10~15年。樹上で生活し、1日約20時間の長い睡眠を取る。餌はユーカリだが、個体によって好みの種類が異なるため、飼育現場ではその準備が悩みの種だ。
平川動物公園は鹿児島の温暖な気候を生かし、ユーカリを自家栽培している。飼育担当5年目の落合晋作さん(44)によると、新鮮なユーカリをコアラに届けるため、飼育担当者が毎日のようにノコギリを持って畑に入り、時にはスズメバチに襲われながら収穫にあたる。書籍では、畑での作業や1日約200キロにもなるユーカリの葉を洗浄するなどの奮闘を写真入りで解説した。
細やかな健康管理や、タイミングを適切に捉えたペアリングなど繁殖の取り組みも大切で、こうした飼育担当者の仕事ぶりにも紙幅を割いた。また、「ホームセンターに行って家庭向けの観葉植物でユーカリが売られていると、値段と品質を確認せずにいられない」などクスリとさせるエピソードが並ぶ「飼育員あるある」のコーナーも魅力だ。
「コアラの赤ちゃんは母親のうんちを食べ、ユーカリが持つ毒を盲腸で解毒しているんです」。書籍の製作に携わった落合さんの口ぶりにはコアラへの深い愛情がにじむ。各ページには写真をふんだんに使い、体重測定の様子では、母親代わりのぬいぐるみを抱いてどんぶりに収まった愛らしい姿などが収められている。
園によると、コアラの国内飼育は一時、10施設に広がったものの現在は7施設に。国内全体の飼育頭数も97年のピーク時は96頭いたが、2024年9月末時点で53頭まで減っている。繁殖が進まず、ユーカリの葉を調達するコストが高くなっていることが要因とみられる。生息地のオーストラリアでは森林伐採や火災などで頭数が激減しているとされ、絶滅の危険すら指摘されている。
落合さんは「鹿児島だからこそ冬場でも餌が確保できる。地の利に感謝したい」と飼育への情熱を語る。福守朗(あきら)園長は「コアラのかわいさや不思議さに加え、飼育員の陰の努力も本を通じて知ってほしい」と期待している。
書籍「すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ」(新潮社)は四六判112ページ。1540円で10月17日発売。26日午後1時半からは、園内で福守園長、落合さんらコアラ飼育担当者、編集者で製作秘話を交えたトークイベントを開く(参加は入園料のみ必要)。【梅山崇】
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