「瀬戸内内の魚にアニサキスはあまりいないですよ」。愛媛県松山市内で3年程前に魚料理を提供する店主から聞いた話です。実はアニサキスによる食中毒を訴えるのは世界の中で、魚を生で食べる文化がある日本が約9割を占めていると言われています。なぜ瀬戸内海で少ないのか。国立感染症研究所の専門家は実は太平洋に住むクジラなどと関係があると見ています。

アニサキスによる食中毒は、魚などに寄生している生きた幼虫が人の体内に食事などで入ると胃や腸に刺さり、激痛やおう吐などの症状を生じます。幼虫は長さ2~3センチ、幅は0.5~1ミリ程でサバやアジ、サンマ、カツオ、イワシなどに寄生します。

国立感染症研究所の寄生生物の専門家・杉山広客員研究員によりますと、日本の周りの海には3種類のアニサキスがいるといいます。太平洋側に多い「シンプレックス」、日本海側に多い「ペグレフィ」、アニサキスの仲間で北海道の周辺にいる「シュードテラノバ」です。

杉山さんは2018年と2019年の2年間で、30都道府県の患者から取り除かれたアニサキスの種類を分析。この結果、約9割が「シンプレックス」。「ペグレフィ」と「シュードテラノバ」はそれぞれ5%程だったとしています。

寒天などを使った実験では、この「シンプレックス」の幼虫は、魚に寄生すると内臓を破り身の筋肉まで侵入することが判明。この一方で「ペグレフィ」は内臓に食いつくものの留まっているとしています。

ここで思い出されるのが「瀬戸内海の魚でアニサキスをあまり見ない」との店主の話。実はこの証言は研究で裏付けられています。

大分大学の小林隆志教授が2014年から2年間かけた研究結果によりますと、アニサキスの寄生率は九州西部で75%、九州南部で38%だったのに対し、豊後水道で獲れるサバで約7%だったとしています。

杉山さんはこの状況には、クジラやイルカなどを巡る海の食物連鎖が関係していると見ています。

アニサキスの親が宿るのはクジラやイルカなど。この宿主からフンに混じって卵が出されふ化した幼虫をオキアミなどが食べ、さらにこのオキアミをサバやカツオなどが捕食。最後に人の体に生きたまま入ると食中毒を起こすとされています。

しかし瀬戸内海は外洋と繋がるのが豊後水道と鳴門海峡、関門海峡しかなく、クジラなどの大型生物が入りにくい場所。この付近でアニサキスに寄生された魚が追われることはなく、結果として瀬戸内海にはあまり入ってこないと見られます。

ただ日本全体で見ると厚生労働省のデータでは、アニサキスによる食中毒の報告は2023年の1年間で432件、10年前と比べ約4.9倍に増加。杉山さんは太平洋側以外にも広がっているとし、背景には流通網の発達や環境の変化で日本海側でもクジラなどが現れ、「シンプレックス」が見つかっていることを指摘しています。

去年のデータでは全体のおおむね3割が日本海側。また瀬戸内海で獲れた魚にアニサキスがいないわけではなく、やはり食べる際には注意が必要です。

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