『BLと中国』周密著(ひつじ書房・3740円)
日本でも人気の『魔道祖師』をはじめ、中国発のBL(ボーイズラブ)は近年世界中から注目を集め、盛り上がりをみせている。中国語で「耽美(ダンメイ)」と呼ばれるBLは、1990年代に日本のBLの影響を受けて始まり、独自の発展を遂げてきた。本書は中国BLの歴史的展開や最新状況を紹介しながら、変動する社会情勢とBLを巡る動向を考察した刺激的な一冊である。
そもそもの前提として、日本と中国ではBLを取り巻く状況が大きく異なっている。中国では政府による検閲が行われており、男性同士の恋愛を性描写も取り入れながら描くBLはポルノグラフィティとみなされ、厳しい規制がなされてきた。それにもかかわらず中国でBLは流布し、検閲の目をくぐり抜けながらさまざまな作品が生み出されてきたのである。多様な視点から中国BLを分析する本書の中でも、検閲に関連するパートはひときわスリリングだ。
BL小説をメディアミックスする場合は、検閲対策として恋愛や性描写を含まないブロマンスに改変するアダプテーションが行われるのが通例である。『魔道祖師』の実写ドラマである『陳情令』では、主人公たちの恋愛要素は大幅に削られた。それに満足できない原作ファンは動画にコメントを書き込み、弾幕を通じてBLのセリフの再現を試みたのである。一方で、アニメ化の過程でブロマンスに変更せず、このBL的な行為は「悪意」から行われているというロジックで検閲を逃れた『千秋』という作品もある。
他にもBLの最前線を走るオンライン小説連載サイトや、音ベースゆえにメディアミックスの中ではBL要素を残しやすいラジオドラマなど、さまざまな事例を通じて中国BLの動向が紹介されていく。リスクを負いながらもBLを展開する各メディアと、原作ファンによる自発的な取り組み。検閲と激しい攻防をみせる両者の生々しい動きを通じて、中国BLの魅力と活気を一般読者にも伝える、真摯な研究書である。
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