最近の研究では、関節過可動性の人は、新型コロナウイルス後遺症や、体位性頻脈症候群、肥満細胞活性化症候群、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群といった慢性疾患を発症するリスクが高いことが示唆されている。(Photograph by Inge Nandrup-Bus, Getty Images)

体の関節が普通よりも柔らかいことを、「関節過可動性」または「二重関節」というが、個人差は大きい。単に手足を人より大きく広げられる人もいれば、何度も脱臼を繰り返す人もいる。手足の可動域が広いだけなら、パーティーの話題作りにちょうどいいかもしれないし、ダンサーや体操選手なら有利になることもある。

しかし、多くの人にとって、関節過可動性は結合組織(全身の組織どうしをつないで体を支える組織)が弱いことを示しており、それが慢性的な痛みや胃腸障害など、さまざまな健康問題を引き起こすことがある。

さらに、新型コロナウイルス後遺症や、体位性頻脈症候群(POTS)、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞(マスト細胞)活性化症候群など、さまざまな慢性疾患にかかるリスクが高いという研究結果もある。

関節過可動性がなぜこのような全身の症状と関連するのかというと、「結合組織が体中のいたるところにあるためです」と、統合的疼痛医学が専門の医師リンダ・ブルースタイン氏は言う。

これらの慢性疾患との関連性についてはまだ研究中だが、関節過可動性の意外なリスク、特にウイルス感染がもたらすリスクについては少しずつわかり始めている。

関節過可動性とは

関節過可動性がある人々は2種類に分けられる。「エーラス・ダンロス症候群(EDS)」がある人とない人だ。

「EDSがある人には皆、関節過可動性がありますが、関節過可動性がある人すべてがEDSを患っているわけではありません」と話すのは、英ブライトン・アンド・サセックス・メディカルスクールで関節過可動性を研究するジェシカ・エクレス氏だ。

EDSは遺伝性疾患で、比較的珍しいと考えられているが(一部の推定では5000人に1人)、関節過可動性がある人はもっと多い。全体的に関節が柔らかい人は一般人口の3〜4%と推定されるが、腕や脚、特定の関節など体の一部だけが過可動だという人はさらに多いと考えられる。

慢性的な痛み、疲労感、消化器系障害など、EDS患者は必ず何らかの症状を訴える。一方、EDSの基準に満たない人では、その関節過可動性は無症状で完全に無害な場合もあれば、さまざまな健康問題とともに現れることもある。

「問題は関節の過可動性ではなく、結合組織の質にあります」と話すのは、結合組織疾患の治療を専門とする米P.R.I.S.M.スパイン・アンド・ジョイントの創立者で医師のアリッサ・ジングマン氏だ。そして、結合組織に何か異常があることを示す最初の手がかりが関節過可動性である例が多いと指摘する。

関節過可動性に加えてほかの症状がある場合、その患者は「過剰運動スペクトラム症候群(HSD)」の基準を満たす。HSDは、EDSの特徴と重なる部分が多く、実際のところ両者の区別は「恣意的」だとエクレス氏は言う。

2021年8月16日付で医学誌「Rheumatology International」に発表された研究では、どちらの疾患でも、患者が訴える症状の重さは同程度と示されている。

関節過可動性の意外なリスク

関節過可動性は、さまざまな形で現れる。不安定な関節を補って怪我を避けるために、筋肉が必要以上に硬直してしまう人もいる。米ユタ大学の理学療法士で関節過可動性と関連疾患の治療を専門とするクレイトン・パワーズ氏は、「硬い筋肉が支えになるのです」と説明する。

このような硬直はしばしば無意識に起こり、長く続けば体への負担が大きくなる。「身体的に、患者はより多くの代償を支払わなければなりません」と話すのは、関節過可動性と関連症状の治療を専門とする米パーPTの創立者で理学療法士のジョナサン・パー氏だ。代償とは、例えば首、背骨、胸のこわばり、慢性的な頭痛や体の痛みなどだ。

また、あまり知られていないが、過敏性腸症候群(IBS)のような胃腸の問題や、原因不明のビタミン欠乏症なども、関節過可動性に伴うことが多い。ほかにも、ふらつき、動悸、頭痛などのように横になることで改善する症状や、過度の疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったような状態)が伴いやすい。

これらの問題の原因は全て、関係する臓器の結合組織までたどることができる。例えば、消化管にはごく薄い結合組織があり、そこに何か弱い部分があれば、食べ物を効率よく分解し、体に栄養を取り込む能力に影響が出る可能性がある。同様に、血管をまとめている結合組織が通常より伸びやすいと、血管は脳に十分な血液を送り込めず、ブレインフォグを引き起こす。

「症状は、人によって少しずつ違います」と話すのは、新型コロナ後遺症の患者を治療する米メイヨー・クリニックの内科医バラ・ミュニパリ氏だ。

慢性的な炎症に加え、病原体から体を守る肥満細胞の過剰活性化など、免疫系の機能不全を示すその他の兆候も、関節過可動性の患者によくみられる。そのため、関節過可動性はアレルギー、自己免疫疾患、食物不耐症などの免疫系の機能不全を伴うことが多い。

「一部の免疫系の調節がきかなくなると、連鎖反応のように次々と免疫の異常が起こってしまいます」とジングマン氏は言う。

ウイルス感染は特に危険

新型コロナ後遺症や、それに関連した体位性頻脈症候群(POTS)、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)などを抱える患者はよく、便秘や頻脈、ブレインフォグ、筋肉痛など、一見関係のなさそうなさまざまな症状を訴える。

しかし、これらの多様な症状の根底にある原因は、それほど謎ではないかもしれない。「症状どうしが結びつかなければ結合組織を考えよ、という格言があります」とパワーズ氏は言う。

ウイルス感染がどのように結合組織を損傷するかはまだ正確にはわかっていないが、仮説はいくつも立てられている。例えば、ウイルス感染が結合組織の炎症を引き起こし、それが「結合組織を傷つけるということはあり得ます」とミュニパリ氏は言う。

新型コロナ感染によって、新たに関節過可動性を発症したり、既存の関節過可動性が悪化したりし得ることを示唆する研究はある。

ほかにも、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バー(EB)ウイルス、新型コロナウイルスなど多くのウイルスが、結合組織を構成しているコラーゲンを傷つけたり、体内で作られるコラーゲンの量を減少させたりするという事実もある。

米非営利団体「MEアクション」の科学ディレクターを務めるジェイミー・セルツァー氏は言う。「元々コラーゲンが少しばかり柔らかい人は、感染症関連の慢性疾患にかかりやすいかもしれません」

文=Rachel Fairbank/訳=荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年10月21日公開)

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