時計の精度があがると、位置情報の精度があがる。そして、GPSの精度向上、地震予測研究、海水面上昇など温暖化現象の地球への影響観測などにも応用が期待される。
その精度が飛躍的に向上した時計の開発に、東大教授らのグループが成功した。

GPS機能は時計の精度と密接なつながり

現在世界中で定義されている標準時間は、量子技術が活用された原子時計で計測されている。
セシウム原子時計の精度は1秒を10のマイナス15乗(15桁)まで計測でき、3000万年に1秒しか狂わない精度がある。

東京大学大学院工学系研究科香取秀俊教授と光格子時計 Ⓒ2024 香取秀俊 東京大学教授
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その精度を1000倍程度向上させる時計の開発に東京大学大学院工学系研究科香取秀俊教授らのグループが成功した。

時計の精度があがると、位置情報の精度があがるため、GPSの精度向上、地震予測研究、海水面上昇など温暖化現象の地球への影響観測などにも応用が期待される。
さらには、時を刻む精度があがったため、アインシュタインの相対性理論の「重力は空間と時間を歪める」という理論を実際に目に見える形で時計に刻むことに成功したのだ。

香取教授らのグループが開発した時計は、冷却原子を使う「光格子時計」。
原子時計はマイクロ波で計測しているが、「光格子時計」では、マイクロ波に比べて約10万倍も速く振動する光の周波数で計測する。

2014年には、1秒を10の18桁の精度を達成、300億年に1秒の誤差しか出さない究極の時計が完成した。

実は、我々が日常的に利用しているGPS機能は、時計の精度と密接につながっていることはあまり知られていない。
スマホの位置情報は、複数の衛星からの信号をスマホが受信することで位置を割り出しているが、衛星とスマホの距離を測定するためには正確な時間を計測するのが不可欠なため、衛星には現在高精度な原子時計が搭載されているのだ。

衛星の原子時計が1マイクロ秒(1秒の100万分の1)ずれると約300メートル誤差が出るといわれている。
「光格子時計」であれば、こうした時計で生じる誤差を抑えることができるようになる。

しかしそのためには、「光格子時計」の小型化が不可欠だった。
香取教授らのグループはレーザー装置を集約化するなどして従来の920リットルから250リットルまで小型化することに成功。
これは将来的に衛星に搭載できるサイズになったといえる。

東京スカイツリーで「一般相対理論」を時計で検証

小型化したことで新たなメリットが生まれた。
研究室から持ち出して、外で計測ができるようになったのだ。

香取教授らが実験場所として選んだのが東京スカイツリー。目的はアインシュタインの一般相対理論を時計で検証するというもの。
高さ450メートルの東京スカイツリーの展望台に1台、地上に1台設置しておこなれた。

結果は展望台の時計が1日あたり約4ナノ(10憶分の1)秒速く進んでおり一般相対性理論の予測通りの結果がえられた。

「光格子時計」の実験室外での測定は、世界で初めてのことだった。

香取教授は「原子時計が開発されると、人類はGPS機能を発明した。高精度な時計を人類は必ず使いこなすことになる。」

光格子時計は時空間の概念を変える Ⓒ2024 香取秀俊 東京大学教授

「時空間を刻むことができる時計になるということは、まさに相対性理論に影響を受けたダリが描いた歪んだ時計が現実化することになる。例えば、標高の高いところにいる人と、平地にいるでは時間の進み方が違うのが測定できる」と話す。

香取教授のモットーは、「研究はみなのやらないことをやる。そこに新しい価値を創造していくことだ」と語る。

2030年には、世界共通となる時間などの単位を定義する国際度量衡総会で秒の再定義が行われる予定で、「光格子時計」はその有力候補となっている。
この「光格子時計」は現在島津製作所が商用化に向けて開発を進めている。

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