神戸市は6月から、頼れる身寄りのない人を対象に、葬儀や納骨の生前契約をサポートする事業を始めました。背景には行政にとって悩ましい“引き取り手のない遺体”の急増がありました。

生前に行う人ぞれぞれの終末への備えと、行政の取り組みを取材しました。

■自分の「骨壺」を自分で決めた女性

大阪府豊中市に住む77歳の女性は、自分の「骨壺」をすでに決めています。

【1人暮らしの女性(77)】「これが私の骨壺。夫が陶芸で作ってきてくれたから、ちょうどいいって」

夫は体調を崩し、現在は施設に入っています。女性はいま1人で暮らし。子どもがいないこともあり、夫が亡くなれば自分は1人きりになりそうです。葬儀や墓をどうするかずっと悩んできました。

【1人暮らしの女性(77)】「子どもがいないから、放っていたら、無縁仏になるのは分かっているので。無縁仏になって手を合わせてくれる人もいない、お水あげる人もいない、お花飾る人もいない…、こんなさみしいことはないですね」

考えた末、遠く離れた場所にあった父親の墓をしまい、樹木を”墓”とする樹木葬に両親の遺骨を移しました。ゆくゆくは自分も、そこに埋葬されることを望んでいて、その希望を姪に伝えています。

【1人暮らしの女性(77)】「私は主人の最期の別れのことをしてやれるけど、私はしてくれる人がいないので、どうなるか。頼んだ姪の気持ち次第ですが、木の墓標さえあれば、土に返っていけば、それでいいと思っています。急に夜中に命がなくなっても、2、3日のうちに見つけてもらえるようなネットワークだけは作っておかないといけないですね」

■「引き取り手のない遺体」10年で約2.7倍の急増

自分が死んだ後について、生前に備える“終活”。多くの人が真剣に取り組んでいます。そして今、一人暮らしの高齢者が増えたことから、新たな課題が目立ってきました。それは“引き取り手のない遺体”の急増です。

神戸市の墓園管理センターには、神戸市内の、引き取り手のない遺骨が保管されています。その数はおよそ3000。いわゆる「無縁遺骨」です。

【神戸市健康局墓園管理センター 宇治仙士係長】「月平均50から60体。5年くらい前までは(年間)450前後だったんですけど、この3年間は600を超えるような勢いで、5年前と比べたら150ぐらい増えていますね」

引き取る親族が見つからなかった遺体は、墓地埋葬法に基づいて市が火葬し、保管することになっています。その数はここ10年で約2.7倍に急増しています。

神戸市では65歳以上の人がいる世帯のうち、単身世帯が約37%に上ります。この割合は、全国の政令指定都市のうちで2番目の高さで、今後も「引き取り手のない遺体」が増えることが予想されています。

■「生前の手続き」サポートする新事業

そんな中、神戸市は6月から、生前に本人が行う「葬儀や納骨の手続き」を支援する事業をスタートさせました。頼れる身寄りがない人を対象にしたもので、葬儀や納骨について市が相談を受け付け、本人と葬儀会社との生前契約につないでいきます。

対象は、65歳以上で年収が230万円以下などの所得制限を満たす人。費用は相場よりも安い、上限36万円とされました。葬儀の宗派や納骨先などの希望にも応じるといいます。

事業開始初日の6月3日は、午前中だけで15件の電話相談があり、10件の予約が入ったということで、ニーズの高さがうかがえます。

■「亡くなってから」では大きな負担

行政が対策に乗り出した背景には、負担の増加という現状があります。

【神戸市福祉局くらし支援課 平野憲司課長】「可能な範囲で身寄りを確認した後、見つからない場合は埋火葬します。(その後)親・きょうだいも調べますが、全てを調べていくと、結構なボリュームになってきます」

親族を探すために戸籍を取り寄せるなど、かなりの手間がかかるほか、火葬などの費用は年間1000万円以上に上ります。


■先行する横須賀市 「私、死亡の時、15万円しかありません」

全国で1番最初にこの事業を始めた、神奈川県横須賀市。過去には火葬した後に、納骨などについての希望が発覚したことがあったといいます。

【横須賀市特別福祉専門官 北見万幸さん】「こういう遺書を書いて亡くなった方が出てきた。『私、死亡の時、15万円しかありません。火葬、無縁仏にしてもらえませんか。私を引き取る人がいません』。遺書の相談を(役所に)恐らくしているけど、相談窓口がないからというので、持ち帰って家の中に置いてあった」

この事業で「引き取り手のない遺体」のうち、約2割が希望通りの葬儀や埋葬の手続きを行えるようになりました。

【横須賀市特別福祉専門官 北見万幸さん】「(親族への調査は)手紙を出しているんです、今は。でも話し合いができない。時間がたってしまう、手紙だと。(本人に)生前に聞くことが勝負なんです」


■生前から「墓友」として交流 同じ墓に入る同士「ほっとする」

行政だけでなく、民間も「頼れる引き取り手のない遺体」の対策に取り組んでいます。

この日、兵庫県高齢者生協が設置している共同墓に、高齢者3人が訪れました。3人は同じ墓に入る「墓友」です。

納骨料や永代供養料として、かかる費用は10万円から20万円ほど。「身寄りがない人」も、多く契約しているといいます。

【兵庫県高齢者生協 藤山孝さん】「核家族になって、家族ばらばらになって、夫婦ならどちらかが亡くなると1人になる。そうなると自分の墓の心配もしないといけない。そういったことから、共同墓の需要が増えています」

合同での墓参りや、年に数回の食事会などがありますが、参加は任意で、生前から「緩いつながり」を持つことができます。

【共同墓契約者】「安心やね。子供に迷惑かけなくてもいい。気にせんでも入るところ決まっているから。墓友という形で集まると、垣根がない。お互いよく知らない仲でも、同じ空間でおいしいものを食べてしゃべれるのはなかなか楽しい」

【共同墓契約者】「景色のいいところに入れて。ここは誰かがつないでいる限り存在すると思うので、亡くなったら分からへんというけど、ほっとします」

【共同墓を契約】「結構にぎやかやからね」「うるさいって言われるかもやね。隣のお墓の人に」


■「引き取り手のない遺体」の対応ガイドライン 国の調査が行われる予定

身寄りのない高齢者が増えていて、1人で亡くなった後、自治体の負担が大きくなっているということですが、今後ますます増えていくことも考えられます。

【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「いま引き取り手がいないご遺体や、火葬をできない方が見つかった場合は、自治体が執り行うことになるのですが、やはり各自治体とも苦慮していて、明確なルールがないそうです。やはり地域によって、慣習や考え方がさまざまなので、国が一元的に管理するのも、無理があります。厚生労働省は今年度から、まず調査を行うことにしています。事例を集めることから始めていきたいということです」

自治体としての調査も、どこまで親族調査をするのか、遺骨の保管はいつまでにするのかなど、自治体として難しい問題です。


■スムーズな対応は「生前の希望をキャッチする」ことがポイント

神奈川県横須賀市で行われているのは「わたしの終活登録事業」という行政サービスです。

サービス実施にあたって、横須賀市では元気なうちに、次のようなことを登録することを高齢者に呼び掛けています。
「本籍・筆頭者」、「支援・身元保証事業者」、「リビングウィル(生前の意思)保管場所」、「葬儀・遺品の整理の契約」、「お墓の所在地」などです。

こうした情報を登録しておくことによって、もし1人で亡くなった場合でも、自分の意思は自治体に伝わっていますので、その後の対応がスムーズということです。横須賀市の担当者は「生前の希望をいかにキャッチできるかが重要。マイナンバーカードなどに情報が入るようになればいい」と話しています。


誰にも必ず訪れる”死”。人生の最後をどのように迎え、周りがどうサポートできるのか、社会全体で考える時代になってきています。

(関西テレビ「newsランナー」2024年6月3日放送)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。