石川県珠洲市の写真家、松田咲香(さきか)さん(38)は1月の能登半島地震で被災し、写真機材や記憶媒体が水没して約10年分の写真データを一度は失った。しかし、データの復旧を専門とする業者がボランティアで復活させた。よみがえった、伝統の「キリコ祭り」などの風景写真展「能登半島 記憶の復元」が21~23日、東京都内で開かれる。
松田さんは、東京で写真を学んだ後、2014年から地元で活躍している。祭りや風景、人々の日常などを地域情報紙に発表してきた。地震では、海岸に近い自宅が半壊した。写真データを記録していた外付けハードディスクやデジカメは津波の泥水をかぶり、起動させられなくなった。「頭がまっくらになりました。自分の仕事が全て消えてしまって」と当時を振り返る。
一方で、専門業者の「デジタルデータソリューション(DDS)」(東京)は3月、富山県の会場で無償の復旧支援を実施した。国内最大のデータ復旧実績があり、東日本大震災や熊本地震でもこうした活動をしてきた。通常の復旧料金は、ハードディスクだと1台で十数万から数百万円かかることもあるが、熊谷聖司社長は「我が社らしい社会奉仕として、災害時には続けている」と語る。
松田さんは、わらにもすがる思いで、会場にハードディスク5台を持ち込んだ。それぞれの容量が2~6テラバイトと大きく、東京へ持ち帰っての作業となった。約1月をかけ、データ約10万点のうち約6万点が復元された。松田さんは「重要なデータは、ほぼ復旧できました。奇跡のようです」と喜ぶ。
展示の目玉の一つが2016年8月に撮った珠洲市宝立町鵜飼の七夕祭り。最大で高さ14メートルもある灯籠(とうろう)の大キリコが、沖のたいまつを目指して海中を乱舞する、能登を代表する「キリコ祭り」だ。今回の地震でその6基中5基が被災し、今年は中止になった。
このほか、珠洲市の名勝「見附島」沖から昇る朝日や、雪の立山連峰を背景にタラ漁船を捉えた作品など約50点を並べる。
松田さんは長らく避難生活を送っていたが、今は仮設住宅へ移る準備をし、写真家としての活動を少しずつ再開している。「震災の記憶は薄れがちです。断水が続いている地域もあり、今も復興に向けて頑張っている人がいます。景色が変わったところもありますが、人の営みや人の温かさは変わりません。ぜひ美しい能登を見に来てください」と呼びかけている。
写真展は、港区六本木の六本木ヒルズ・森タワーにあるDDS本社で、3日とも午前10時~午後4時。会期中は松田さんも会場で説明に当たる。無料だが19日までにサイト(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000124.000017714.html)で予約が必要。問い合わせはDDS広報(https://www.digitaldata-solution.co.jp/contact/)へ。
【森忠彦】
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