原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、佐賀県玄海町議会が、町内3団体から提出された文献調査受け入れを求める請願について、25日の原子力対策特別委員会で採決する。九州電力玄海原発を抱え財政状況も豊かな同町から声が上がった背景に、原発の操業を継続させるため、進まない最終処分場の議論に一石を投じたいとの思いが垣間見える。一方、反対派からはなし崩しに受け入れ議論が進むことへの警戒の声が上がる。
「原発の立地自治体の責務として、最終処分場の議論を深めるべきだ」
調査受け入れに賛成の町議は請願提出を受け、こう語った。最終処分場が決まらない原子力政策は「トイレなきマンション」と揶揄(やゆ)されるが、現状、三つある選定調査の最初の段階である文献調査に名乗りを上げたのは、いずれも北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村のみだ。2023年には、長崎県対馬市で受け入れの動きが出たが市長が拒否した。
議論が進まないことに町議らが危機感を強める背景に、町の原発依存度の高さがある。町によると、24年度の当初予算の歳入99億8000万円のうち、原発立地による交付金や使用済み核燃料税など原発関連が約6割。テロ対策施設が完成したことで固定資産税も増え、23年度も地方交付税の不交付団体となった。
別の町議は「議論が進まなければ、原子力政策は行き詰まる。町が調査を受け入れることで、議論が広がってほしい」と語る。
町議の考えに呼応するかたちで、請願提出に向けた検討も進められた。町旅館組合の組合長(55)によると、以前から最終処分場の話はあったが、23年11月に、処分場選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が地元説明会を開催し「23年の暮れごろから準備をしてきた」と明かす。
もっとも、文献調査受け入れで国から入る最大20億円の交付金は「小さな町には大きい」(賛成派町議)。
請願を提出した3団体のうち、町旅館業組合と町飲食業組合は15年と19年の1、2号機の廃炉決定以降、利用する作業員が減ったことで経営に影響を与えている現状を強調。飲食業組合は請願で「最終処分場は新たな産業振興策の選択肢の一つだ」と訴える。
こうした動きに反対派町議は「自分たちの商売がもうかればいいと考えている。処分場が受け入れられれば、農業や漁業などの風評被害が出る」と警戒する。
原発に反対する市民団体は17日、脇山伸太郎町長宛てに反対の要請書を提出。22日には町役場前で任意団体「玄海原発反対!からつ事務所」の北川浩一代表(77)が抗議活動を行った。北川氏は「町議会は目先のことだけを考えて決めている」と批判するが、原発の恩恵を受ける町内で反対の声を上げる人は多くはない。
資源エネルギー庁やNUMOは処分場に関心を示す新たな自治体が出たことを歓迎。政府が17年に公表した処分場の適地を示す「科学的特性マップ」は、石炭が埋蔵される町全域を「好ましくない特性があると推定される」とするが、エネ庁は「最終処分場としての適否を判断するには、文献調査の実施が必要だ」との認識を示す。
25日の特別委で請願が採択され26日に予定される本会議でも採択されれば、脇山町長が最終判断することになる。調査受け入れに賛意を示す町議が半数を超え、請願が採択される公算が大きいが、脇山町長は「議論の行方を見守る」と述べるにとどめている。
一方、文献調査の次の段階に進むには、市町村長に加え知事の同意も必要だ。山口祥義(よしのり)知事は「新たな負担を受け入れる考えはない」と否定的な考えを示している。【五十嵐隆浩、森永亨】
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