和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77歳)が6年前に急死した事件で、殺人と覚醒剤取締法違反(使用)の罪に問われている元妻の須藤早貴被告(28)の裁判員裁判が12日午前、和歌山地裁(福島恵子裁判長)で始まった。被告側は無罪を主張した。
物言わぬ遺体は何かメッセージを発していないか。被告の元妻が否認する中、異変や犯罪性をつかむ手がかりになるのは、法医学者らによる遺体の解剖だ。野崎さんが死亡した事件では、犯罪死の見逃しを防ぐために設けられた「調査法解剖」が活用された。
野崎さんの急死後、和歌山県警は解剖で遺体から多量の覚醒剤成分を検出した。これで事件性を強く疑うようになり、本格的に捜査を進めることになった。
調査法解剖は死因・身元調査法に基づくもので、犯罪性が高くなくても実施できる。医師や家族らにみとられて亡くなった場合を除けば、死因が明らかでない遺体は少なくない。事件に巻き込まれた可能性も拭えないことから、死因究明の仕組みを充実させるために2013年から導入された。
きっかけの一つになったのは大相撲・時津風部屋の力士が07年に死亡した事件だ。警察は病死と判断していたが、解剖の結果で死因は外傷性ショックと判明。親方らから暴行を受けていたことが明らかになった。
犯罪捜査を目的とする司法解剖と異なり、調査法解剖は警察署長の判断で実施可能なうえ、裁判所の令状や遺族の承諾は不要とされている。警察庁によると、調査法解剖が実施された件数は導入翌年の14年は1921件だったが、23年は3116件にまで増えた。
日本法医病理学会理事長で、和歌山県立医科大の近藤稔和教授は「解剖は亡くなった方の人権を守るため、最後にできる医療行為だ。事件性が定かでない場合にも確かな死因を究明することは重要になるため、調査法解剖には意義がある」と話す。【安西李姫】
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