長野・岐阜県境にある御嶽山で2014年9月に58人が死亡し、5人が行方不明となった噴火災害から27日で10年を迎えた。福島県内には五つの活火山があり、このうち気象庁が24時間体制で監視する「常時観測火山」が三つある。身近で起こりうる火山災害に対して、どのような備えが求められるのか。県が8月25日に開いた火山防災シンポジウムから方策を探った。【木村健二】
活火山について、火山噴火予知連絡会は03年に「おおむね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義。県内には、吾妻山(福島市など)▽安達太良山(二本松市など)▽磐梯山(猪苗代町・磐梯町・北塩原村)――の常時観測火山に加え、沼沢(金山町)、燧ケ岳(ひうちがたけ)(檜枝岐村)がある。また、栃木県北部にある那須岳も噴火すれば県内に影響が及ぶ恐れがある。
23年6月に活動火山対策特別措置法が改正され、政府は今年4月に「火山調査研究推進本部」を新設するなど、対策の強化を進めている。8月26日は「火山防災の日」に定められた。1911年8月26日に国内初の火山観測所が浅間山(長野・群馬両県境)に設置されたことにちなんでいる。シンポジウムは「火山防災の日」に合わせて福島市のパルセいいざかで開かれ、約100人が参加した。
御嶽山噴火をはじめ、各地の火山噴火を調べている産業技術総合研究所主任研究員の及川輝樹さんは、火山噴火の種類の違いを説明し、赤く熱いマグマが地表に直接出てくる「マグマ噴火」、地下水が加熱されるなどして急激に水蒸気となって膨張して爆発が起きる「水蒸気噴火」を紹介。水蒸気噴火について「マグマ噴火よりずっと数が多くて、地球上で最もありふれた噴火」と評し、14年の御嶽山噴火も水蒸気噴火だったことを示した。
水蒸気噴火はマグマ噴火に比べて浅い場所で少量の物質が移動して起きることから予知が難しく、及川さんは「災害としては非常に怖い」と注意を促した。紅葉シーズンに起きた御嶽山噴火では犠牲者が火口から1キロ圏内に集中しており、「これを教訓にすると、噴火の発生前に1キロ以内に立ち入ることを禁ずるのはかなり合理的な話だ」と解説した。
「吾妻山は山岳道路が通っているから、噴火口の目の前まで行ける。もし万が一、秋の紅葉時期、突然、小規模な噴火が起きたらどうなるでしょう?」。磐梯山噴火記念館館長の佐藤公(ひろし)さんは、こう投げかけた。吾妻山で登山や観光の拠点となる「浄土平ビジターセンター」の周辺は、多い日で1000人以上が訪れる。
佐藤さんは火山噴火について「地震と違って難しいのは、火山ごとにその時々で発生する現象が異なり、季節によって災害の規模も変わる」と指摘し、それぞれの火山ごとに作られている「火山防災マップ」を理解することが最も大切だと強調。ハード面で突発的な噴火時に噴石を避けるシェルターの整備を求め、ソフト面では過去の自然災害の様相や被害状況が記された「自然災害伝承碑」を活用した防災教育の普及を訴えた。
県内の常時観測火山を見ると、吾妻山の浄土平レストハウスをシャッターで補強している程度で、シェルターは整備されていない。県は近く、関係する市町村を交え、シェルターの整備に向けたワーキンググループを設置し、本格的な検討を始める方針だ。
磐梯山噴火記念館では11月30日まで、企画展「吾妻山と御嶽山」を開いている。
福島県内の活火山で起きた主な災害
1824年9月7日 安達太良山の一角で豪雨による大規模な土石流が発生して温泉街の200人超が死傷(岳山変事、岳山崩れ)
1888年7月15日 磐梯山が水蒸気噴火。岩なだれで山麓の5村11集落が埋没し、死者は461人とも477人とも。明治以降で最大の火山災害
1893年6月7日 吾妻山が噴火。火口付近を調査中の2人が死亡
1900年7月17日 安達太良山が水蒸気噴火。沼ノ平火口の硫黄採掘所が全壊し、72人が死亡、10人が負傷
1950年 吾妻山が水蒸気噴火
1977年 吾妻山が水蒸気噴火
1997年9月15日 安達太良山の沼ノ平火口付近で火山ガスにより4人が死亡
※気象庁のホームページなどによる
福島県に関係する火山の現状
吾妻山 火山活動がやや高まった状態から静穏に向かっている
安達太良山 静穏に経過している
磐梯山 おおむね静穏に経過している
沼沢 静穏に経過している
燧ケ岳 静穏に経過している
那須岳 静穏に経過している
※政府の火山調査研究推進本部火山調査委員会による評価(9月25日)
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