日本有数のワイン産地である山梨県甲州市。
今年もワインの仕込み作業が始まり1年で最も忙しい時期を迎えている。
この記事の画像(8枚)このブドウ畑を管理するワインメーカーの小林弘憲さんは収穫間近のぶどうを味見し「非常にいいワインになる。気候と畑にあったベストマッチ」と今年のブドウの出来に満足していた。
しかし、このブドウが実るまでは6年の歳月を要していた。
高地に“引っ越した”ブドウ畑
甲州市は約150年前の明治時代にワイン作りが始まったという、国産ワイン発祥の地である。
しかし、甲府気象台が甲州市で観測を始めた45年前と比べて、年間の平均気温が1.2度上昇しており、急激な地球温暖化がブドウ栽培に影響を与えている。
「連日の熱帯夜で昼夜の気温差が少ない。その作用で赤ワインに大切なブドウのタンニンや酸が非常に低くなってしまう」と小林さんは、特にここ数年の夏の高温に悩まされていた。
気温の低い場所へ、このワイナリーが行った対策は、標高850mの高地にブドウ畑を作ることだった。
従来より400mほど高い場所に、新たにブドウ畑を作ったことで、栽培地の気温が3℃ほど低くなり、「夜がしっかり冷えることにより、昼間蓄積していたエネルギーをしっかりブドウの中に蓄えることができるようになった」と効果を実感しているという。
また、気象台によると2100年には年平均気温が今よりさらに1.4℃上昇するという試算もでており「温暖化が予測以上に進んでいることを実感している。もちろん5年先、10年先を見据えて、私たちも活動しているが、10年先もしかするともっと違う環境になっている可能性がある」と小林さんは不安も口にする。
高温・ゲリラ雷雨対策も
高地にブドウ畑を作るだけでは、今後の地球温暖化に対応しきれない可能性があるとして、暑さに強い品種を栽培しているという。この3ヘクタールの畑だけで、現在シラーやピノ・グリなど5種類のブドウを栽培。
今後は世界各地の暖かい地域で栽培されているブドウを選び、少しずつ品種を変えながら対応していくということだ。
また、地球温暖化の影響は気温だけでなく、ゲリラ雷雨や台風の増加にも影響をおよぼしている。ぶどうは水がたまると根が腐ることもあるとして、この畑を作る際に大雨対策も考えたという。
小林さんは、「緩やかな斜面に畑を作った、これで水がたまることなく下に流れていくようにしている」と説明。また、草も一緒に植えることでさらに水はけがよくなり、ブドウへのダメージを減らしている。
水はけをよくするために草を植えたことで、思わぬ効果もあった。鹿の食害のために極めて僅かな昆虫や植物しか見つからない状態だったこの山に花が咲き、チョウなど昆虫も増え、さらに昆虫を目当ての鳥も来るようになり生態系が豊かになったのだ。
この場所に畑を作り始めたのが2017年。
初めてのワインの味
7年たち、今年ようやく初めてワインができた。
ワイン作りは畑を開いてから商品になるまでは10年近くかかるといわれ、しかも、いいワインが出来るかはブドウが全てだとして、収穫するまでは不安が常につきまとっていたという。
今年できたワインを初めて試飲したときのことを、小林さんは昨日のことのように思い出す。「本当にここにぶどう畑を展開してよかったなとまず思った」と味に満足したことを教えてくれた。
しかし、本当に楽しみなのは樹齢を重ねる10年、15年先で、その頃ブドウが本領を発揮していくという事だ。
また、今最も大切にしていることは「150年前の先人たちから引き継いだワイン作りという財産を、次世代にしっかりとつないでいく」ことだという。
そのためにも、試行錯誤を行い、甲州の気候風土にあうワインを表現し続けることが何よりも大事になるという。
地球温暖化と向き合い国産ワイン発祥の地から次世代へつなぐワイン作りは続く。
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