患者や家族から医療従事者が暴言や理不尽な要求などを受けるペイシェントハラスメント(ペイハラ)が問題視されている。診察内容に不満な患者が居座ったり、自分や家族の診察を優先するよう要求したりするものから、暴力やセクハラといった事件性を帯びた被害もあり、警察と連携して講習を開く病院も出てきた。識者は「国や自治体などが主導し、業界全体で対策をとる必要がある」と話している。
「仕事だから割り切っている。日常茶飯事です」。日赤愛知医療センター名古屋第二病院(名古屋市)に勤めるベテラン看護師の女性が打ち明ける。患者に怒鳴られたり、体を触られたりすることもありストレスを募らせ、「特に言葉の暴力に恐怖を覚える」とため息をつく。
病院では昨年、職員が暴力を受け愛知県警に被害届を出す事案が発生。自衛できるよう県警昭和署にペイハラ対策の講習を依頼し、今年7月に看護師ら約50人が参加して護身術などを学んだ。
腕や胸ぐらをつかまれた講師役の署員が相手の手をふりほどく方法を披露し、職員も実践。署員は「精神的な負担を減らし、被害を深刻化させないためにも上司へ報告、警察に通報を」などと呼びかけた。
医療従事者の安全に詳しい関西医科大の三木明子教授によると、ペイハラは以前から多かったが、見過ごされてきた。近年はハラスメント意識の向上で、重大な問題との認識が広がったという。
三木教授は「ハラスメント被害は人災だ。従事者がスムーズに初期対応できるようにする必要がある」とエスカレートさせない方策を求める。
最悪のケースでは、2021年12月に大阪市で男が通院先のクリニックを放火し26人が犠牲になった事件や、22年1月に埼玉県ふじみ野市の住宅で、男が母親の担当医らを呼び出し散弾銃を発砲、医師が死亡する立てこもり事件も起きている。
自治体などは対策を進める。埼玉県では銃撃事件を受け、医療従事者のサポートに力を入れ始めた。啓発ポスターの配布、相談窓口の設置などを行っている。沖縄県医師会では県警と連名で、23年7月から啓発ポスターを配布。研修会の実施も検討している。
新潟県でも被害は深刻で、11県立病院を対象に対策指針を5月に策定した。組織的な対応、警察への相談・通報などを基本とし、「録音をちゅうちょしない」「正確に記録し複数人で対処する」と具体的に例示する。
県は9月末までに、指針を基にして対応責任者を明確にしたマニュアル策定を各県立病院に求めた。県内では指針を自主的に活用する民間病院も複数ある。県病院局の波多野孝業務課長は「問題を職員が抱え込まないよう、組織として守ることが重要」と強調する。〔共同〕
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