最高裁裁判官が職責にふさわしいかどうかを有権者が投票する国民審査が、衆院選と同日の27日に実施される。今回から在外邦人も参加できるようになるなど制度の改善は進んだ。一方で、注目度の低さや判断材料の乏しさなど課題も残されている。
「日本の『法の番人』の審査に海外からも参加できるのはありがたい」。米ニューヨーク市の金融機関に勤務する30代男性はそう語る。
日本にいたときは毎回欠かさず投じていたが、渡米後におこなわれた2021年の国民審査時は海外では投票権がなかった。今回は現地の在外公館で投票するつもりといい「裁判官がその職責にふさわしいのかしっかり見極めたい」と話した。
今回から海外に住む人も投票できるようになった国民審査。きっかけは22年の最高裁大法廷の判決だ。「憲法は選挙権と同様、国民が審査権を行使する機会を平等に保障している」とし、在外邦人の投票を認めないのは憲法違反と判断した。
これを受けて政府は国民審査法を改正。国内のように裁判官の名前を紙に印刷すると作業が間に合わなくなる恐れがあるため、番号のみを印刷した在外投票用の用紙を用意した。それぞれの番号に割り振った裁判官の一覧表を貼り、辞めさせたい裁判官に対応した番号に「×」を書く仕組みだ。
投票できるのは衆院選と同様、あらかじめ「在外選挙人名簿」に登録した有権者だ。総務省によると、今回は9万5711人で、在外公館以外に郵便などによる投票もできる。
最高裁裁判官の適否を国民が直接投票で審査できる制度は世界的にも珍しいとされる。直前に夫婦別姓を巡る裁判の大法廷決定があった21年審査では、夫婦同姓を定めた民法などを「合憲」とした裁判官4人の罷免を求める声がSNS上で拡大。「落選運動」の様相を呈した結果、対象の11人の中でこの4人だけ不信任率が7%を超えた。
だが、1949年の第1回以降、過去25回の審査で裁判官が罷免された例は一度もない。罷免を望む「×」の投票率が最も高かった時でも72年の約15%となっている。
近年の投票率は50%台で推移し、同時におこなわれる衆院選を下回る。国民審査に詳しい明治大の西川伸一教授は「衆院選の『ついで』と思われてしまっているのが現状だ」と嘆く。
今回は対象となる6人のうち、選挙管理委員会などが公表している経歴で3つ以上の裁判例が紹介されているのは2人のみ。判断の軸となる裁判例がない対象者が目立つ。最高裁はホームページで趣味なども紹介しているが、判断材料が不十分との指摘もある。
憲法では就任して最初の衆院選と、その後は10年が経過した後の選挙ごとに審査すると定める。最高裁判事は70歳が定年のため、今回の6人はこれが最初で最後の審査になる。任期中に衆院選がなく、審査を一度も受けずに定年退官した事例もある。
制度を変えるには憲法を改正しなければならない。西川教授はまずは現状の仕組みで実効性を向上させる取り組みを検討すべきだとする。「ユーチューブなどを通じて裁判官が国民に直接言葉を届ける工夫も一案」と話す。
その上で、有権者に対して「罷免に至らないとしても有権者がきちんと見ていると裁判官に伝わるだけで国民審査の意味はある。国民が裁判官の資質を直接確認する重い1票を投じてほしい」と呼びかけている。
▼国民審査 憲法79条に規定された手続きで、最高裁裁判官がその職責にふさわしい人物かどうか、国民が投票で審査する制度。辞めさせたいと思う裁判官に「×」印を書き、信任する場合には何も書かない。「×」以外の記入をすると全て無効になる。「×」が有効投票の半数を超えると罷免される。今回の国民審査の対象となるのは、前回2021年の衆院選以降に就任した裁判官で、告示順に尾島明、宮川美津子、今崎幸彦(最高裁長官)、平木正洋、石兼公博、中村慎の6氏。衆院選と同様に16日から期日前投票が始まり、27日に行われる。
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