有期雇用契約が通算5年を超えたのに無期契約に転換されず、雇い止めされたのは違法として、元大学講師の女性が大学側に地位確認などを求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(岡正晶裁判長)は31日、女性の無期転換を認めない判決を言い渡した。
一定の要件を満たした大学教員は、通算10年を超えないと無期契約に転換されない特例規定がある。最高裁が「10年特例」について判断を示したのは初めて。
女性の訴えを認めて雇い止めを無効とした二審・大阪高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。雇い止めに合理的な理由はないなどとする女性側の主張について検討を尽くすよう求めた。
2013年施行の改正労働契約法は、有期契約が通算5年を超えると雇い主の意思にかかわらず無期契約に変更できる「無期転換ルール」を定める。一方、大学教員の任期を定めた任期法は「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」については、通算10年たたないと無期転換されないとの特例を設けている。
女性は10年から羽衣国際大(堺市)で非常勤講師として勤務。介護福祉士の養成課程を担当し、13年から専任講師として3年の有期契約を結んで16年に更新した。契約期間が通算5年を超えた18年に無期転換を申し入れたが、大学側は10年特例を理由に受け入れず、雇い止めにした。
訴訟では女性が特例の要件になる「教育研究組織の職」に当たるかどうかが争われた。
判決は、任期法に「多様な人材の受け入れを図り、教育研究の進展に寄与する」趣旨があることを踏まえ、特例の対象を厳格に解釈するのは「相当ではない」とした。
その上で、女性の職務を検討した。「資格や実務経験を有する教員により、実践的な教育研究がおこなわれていた。教員の流動性を高めて最新の実務経験や知見を不断に取り入れるのが望ましい面があった」と認め、「教育研究組織の職」に該当すると結論づけた。
女性側は訴訟で、特例の対象になるのは最先端の技術開発を担う場合などに限られると主張。大学は女性に最先端の教育などを期待して採用したわけではなく、女性は介護福祉士の国家試験の受験対策などに徹しており、対象にはならないと訴えていた。
23年の大阪高裁判決は「先端的な教育研究であることが、具体的事実で根拠付けられていると客観的に判断できる」必要があると指摘した。
女性は「介護以外の広範囲の学問分野の知識は必要とされず、研究の側面も乏しい」として特例を適用せず、請求を棄却した一審・大阪地裁判決を変更し、雇い止めは無効とした。
南山大の緒方桂子教授(労働法)は「特例が導入された経緯や趣旨を踏まえた高裁判決に対し、最高裁は大学の判断の幅を重く見て規定を形式的に解釈した。今回の原告と似た状況にある大学の任期付き職員は多く、特例の適用対象を広く捉えた今回の判決の影響は大きいだろう」と話している。
文部科学省の23年の調査によると、同年3月末までに対象となった有期契約の大学や研究機関の研究者ら約1万2400人のうち、無期雇用の契約に切り替えたかその権利を得たのは約8割だった。
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