物価対策として電気・ガス料金を抑える国の補助金事業を巡り、2023年度予算で計上された3兆2527億円のうち18%にあたる5714億円が24年度に繰り越されていたことが6日、会計検査院の調べで分かった。予算が過大だった可能性がある。政策効果の検証も不十分で、事業計画全体の甘さが浮かび上がった。
検査院は6日、官庁や政府出資法人を調べた23年度決算検査報告を石破茂首相に提出した。検査で税金の無駄遣いを指摘したり改善を求めたりしたのは345件、総額648億円だった。
電気・ガス料金向け補助金はロシアのウクライナ侵略などによる物価上昇の対処策として23年1月に始まった。企業や家庭の負担を軽減するため、電力・都市ガスの小売会社が値引きした分を補塡する形で国が支援金を配った。
検査院が執行状況を検査したところ、22年度に計上された3兆1073億円のうち、8割にあたる2兆5346億円が23年度に繰り越された。23年度は繰り越し分を含め3兆2527億円の予算を計上したが、5714億円は年度内に執行されず24年度に繰り越された。
制度を所管する資源エネルギー庁は多額の繰り越しが発生した理由について「年度内に小売り事業者が値引きを行うための必要額を見込むことが困難で、事業を完了できなかった」と説明しているという。予算の見積もりが甘かった可能性がある。
検査院は事業の効果についても確認した。資源エネルギー庁は事業の進捗を確認する23年度当初の「行政事業レビューシート」で、補助金により各家庭の電気・ガス料金を18%抑えるという目標を掲げた。しかし実際の成果を正確に調べていなかった。
検査院は「資源エネ庁が成果実績を把握しているか、目標値を達成しているかは確認できなかった」と指摘した。同庁に対して適切な目標を設定し、実績を評価するよう求めた。
電気・都市ガスやガソリンの料金を抑える補助金の予算総額は累計で11兆円を上回っている。政府主導の「官製値下げ」は家計の負担軽減になる一方、市場の価格形成をゆがめ、脱炭素政策にも逆行するとの見方がある。
電気・ガス料金への補助は10月末で終了した。ガソリン補助は年内までの措置となっている。今後の対策について武藤容治経産相は1日の記者会見で「低所得世帯向けの給付金や、エネルギー価格の高騰に苦しむ方々への支援などを行うための重点支援地方交付金を含め総合的に検討する」と述べた。経済対策の議論の中で検討を進める。
多重下請けの構図も 検査院「妥当性確認できず」
電気・ガス料金の補助事業は再委託が繰り返される多重下請けの構造だったことも判明した。会計検査院によると、事務局に選ばれた博報堂から下請け企業への金額ベースの委託費率は7割を超え、さらに8割超が別企業へ再委託されていた。
検査院によると、博報堂は2022年11月から24年8月までの1年10カ月間、事務局の運営を担った。総額319億円のうち、71%(227億円)が下請け8社への委託費用だった。
そのうち申請書類の審査業務やコールセンター対応など210億円分の委託先は同社のグループ会社「博報堂プロダクツ」だった。博報堂プロダクツは別の下請け5社に186億円分を再委託していた。
多重下請けは20年、持続化給付金の配布事業でも明らかになった。一般社団法人が97%分を電通に再委託し、透明性が確保されないと批判を浴びた。事業を担った経済産業省は22年、再発防止に向け委託状況を厳格にチェックする方針を示した。
今回の電気・ガス料金補助では委託費率が50%を超える場合、資源エネルギー庁に理由書を提出し、承認を受ける必要がある。同庁は理由書を踏まえ「問題なし」と判断したが、書類には委託や再委託の理由が具体的に記載されていなかった。
検査院は「委託の妥当性や適切性が確認できない」と指摘した。資源エネ庁に対して承認プロセスを検証できるようにし、十分な説明責任を果たすよう求めた。
(藤田このり)
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