太平洋や市街地を望める山頂=福島県南相馬市の国見山で2024年4月13日、尾崎修二撮影

 東京電力福島第1原発事故と2019年の台風で被災した福島県南相馬市原町区の国見山(564メートル)が今春、13年ぶりに「山開き」し、春の訪れを告げる山野草も花を咲かせた。登山客は「ようやく地元の山に登れる」と喜ぶ一方、空白期間が長かったゆえの課題も口にする。【尾崎修二】

 通年で登れる国見山は国の避難指示こそ出なかったが、放射線量が比較的高く、市は震災後、中腹に車で行ける林道を閉鎖するなど登山を推奨してこなかった。19年の台風で斜面が崩れる被害も重なり、除染や復旧工事が長期化。今年4月にようやく林道を再開通し、5月6日に記念式典が開かれる。

かれんなピンクの花を咲かせていたイワウチワ=福島県南相馬市の国見山で2024年4月13日、尾崎修二撮影

 「カタクリやイワウチワのきれいな時期ですよ」、地元出身の別所智春さん(80)に誘われ、13日に山を登った。別所さんは1990年、「国見山に親しむ会」を仲間らと結成。絶滅が危惧される希少な動植物も見つかり、行政に保全を呼びかけたり、登山道の整備や刈り払い作業をしたりして、地元の自然や景観を守ってきた。

 同会が道沿いに植樹したヤマザクラ、ヤマツツジ、マンサクなどは除染や再整備の一環で大量に伐採された。「ここも全部切られちゃったか……」。別所さんは残念がった。

 一方、ヤマツツジが切られた登山道沿いに山野草のイワウチワが群生し、かれんなピンクの花が登山客の目を楽しませていた。別の場所にはカタクリも咲き、別所さんは「よく残ってくれた。少しずつ増えるといいな」

 市が再建した中腹の展望台は、市内を一望できる最高の眺めだった。一方、山頂は震災後に伸びた雑木林のためか左右の見晴らしが少し悪く、中腹から見えた金華山(宮城県石巻市)も見えなかった。登山客の男性も「ちょっと狭い」と苦笑いしていた。

登山道沿いにあった木製の鳥居やほこら。震災後の劣化のためか激しく傷んでいた=福島県南相馬市原町区の国見山で2024年4月13日、尾崎修二撮影

 最も気になったのは登山道で、13年間にわたり山に入る人が激減したこともあり、本来のコースが分かりにくい箇所が複数あった。山頂近くにあった分岐点の標識は地面から外れ、少し離れた場所の木に立てかけられていたため、別所さんと一緒に分かりやすい場所に設置し直した。地元の60代女性も「ようやく登れるようになったが、ところどころ道が分かりづらい」と話した。市は「市内の登山グループとも相談し、登山道の整備を進めたい」と話す。

 再整備には2億円超の復興予算が投じられ、市は「多くの人に訪れてほしい」と呼びかける。ただ、過去に放射線量が高かったこともあり、学校や園の行事で子どもたちを一律に参加させる形での利用は当面難しそうだ。

 「親しむ会」も会員の高齢化や離散で、震災前のような活動の再開は厳しい。「(刈り払いなどができる)元気な下の世代が現れてくれるとうれしい」と別所さん。豊かな自然を気軽に親しめる低山の魅力と、一度途絶えたものを再生させる難しさを感じる登山だった。

 登山道の最新の空間線量率は最大で毎時1・7マイクロシーベルト。環境省と県が設置する環境再生プラザ(福島市)が2月に測定した。これまで放射線量が比較的高かった約500メートル(山神さま~山頂ベンチ)の平均線量は高さ1メートルで毎時0・78マイクロシーベルトだった。市街地より高いものの、市は「登山利用する分には十分に低い値」とし、登山道入口に情報を掲示するという。

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