データセンターはクラウドコンピューティングの根幹で、データの保存や処理、インターネットへの配信に必要な物理的なインフラと資源を提供している。
だが、DCに電力を供給するのは簡単ではない。国際エネルギー機関(IEA)によると、DCの電力消費量は既に世界全体の約1%に及んでいる。
生成AIのような新しいテクノロジーの計算作業により、DCのエネルギー消費量と運用コストはさらに増えている。世界の電力消費量に占めるDCの割合は今後数年で急上昇する見通しだ。
企業はこの問題への関心を深めている。決算説明会でDCのエネルギー消費について取り上げられた回数は急増している。
一方、DCの環境への影響を軽減する新たなテクノロジーも登場している。今回のリポートでは、DCを変革する可能性がある3つのテクノロジーを紹介する。
ポイント
・AIデータセンターは大量の電力を消費し、熱を発生するため、冷却技術の需要が高まるだろう。液浸冷却方式はサーバーを液体に浸して熱を吸収する。従来の空冷方式よりもコストとエネルギーを抑えられる。
・光コンピューティングはデータ処理のエネルギー効率を高められる。もっとも、これはまだ開発初期の技術だ。
・核融合エネルギーはいずれ持続可能なDCに電力を供給する可能性があり、巨大テックは既に資金を投じている。計算需要の増加に伴いDCの電力消費量が増え、送電網に負担がかかっている。電力各社は対応に苦慮しており、潤沢で安定したクリーンエネルギーの需要が高まっている。
AIデータセンターは大量の電力を消費し、熱を発生するため、冷却技術の需要が高まる
DCは常時稼働する機器から出る熱を冷やす必要があるため、水を大量に消費する。冷却コストはDCの電力消費の大きな割合を占めており、クラウド事業者が使う最大級のDCでは年間最大2億ガロン(約7億5700万リットル)の水が使われているとみられる。
新たな冷却技術の1つは液浸冷却方式だ。電気を通さない液体にサーバーを直接浸し、過熱を防ぐ。この液体には誘電性があり、サーバーを浸している間も部品は適切に作動する。
この方式を使えば、DCのコストと水の使用量を抑えられる。米デル・テクノロジーズとこの技術で提携している米グリーン・レボルーション・クーリング(Green Revolution Cooling)は、冷却に必要な電気代を95%抑えられるとしている。液浸冷却を使えばサーバーの設置密度を高めることができ、DCの面積も縮小できる。
液浸循環の環境面のもう1つのメリットは、温度を低く保つためのファンや空調の必要性を減らし、騒音を抑えられる点だ。DCの騒音に対する苦情は多く、付近に暮らす人間や野生生物の生活の質、近隣の資産価値に影響を及ぼしている。
液浸冷却の課題は、特に既存のDCを改修する際のコストと設置の複雑さだ。液冷方式など他の冷却技術はサーバーに改良を加えるだけでよいが、液浸冷却方式は必要な機器への多額の先行投資が必要で、機器を浸すラックも変えなくてはならない。もっとも、DCは相次ぎ新設されており、運営各社は長期的に電気代を抑えられる液浸冷却への投資が妥当だと考える可能性がある。
光コンピューティング、データ処理のエネルギー効率向上
現在のチップでは生成AIについていけなくなる可能性がある。電気信号を使ってコンピューターの計算を可能にする従来のトランジスタは、微細化が物理的限界に達しつつある。このため、この構造に基づいて設計されたチップの性能を今後飛躍的に高めるのは難しくなっている。
一方で、別の計算方法が勢いを増している。
光コンピューティングでは、電子の代わりに光子(光の粒子)が使われる。この技術はワイヤで電子を伝送する(その際の電気抵抗でかなりの熱を出す)チップよりもエネルギー効率が高く、熱の発生もはるかに少ない。
この技術はAIに特に有用だとの見方もある。光コンピューティングは計算時に高密度データを処理でき、AIでよく使われるタスクに適しているからだ。
もっとも、これはまだ開発初期の分野で、スタートアップの3分の2はアーリーステージ(初期)だ。この分野のスタートアップによる23年の資金調達額は計3億5000万ドルに達し、前年のわずか2600万ドルから大きく増えた。
23年の調達額の大半を占めたのは、ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の米ライトマター(Lightmatter)による2回の資金調達ラウンド(合計調達額3億900万ドル)だった。米グーグル・ベンチャーズ、米ロッキード・マーチン、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズなどが参加した。
ライトマターは光工学とトランジスタの両方を用いた製品「パッセージ」の24年の量産化に取り組んでいる。AIモデルの学習などのタスクでの使用を想定している。
光コンピューティングは勢いを増しつつあるが、課題も目立つ。例えば、電子チップとは異なりデータの保存とアクセスに問題があるため、広く適用できない。部品の価格は従来のチップよりも高く、光システムの拡大も難しい。だが、AIがコストの高い電力を大量消費することを考えると、DCでは一定のAIタスク向けに消費電力の少ない光チップが使われるようになるだろう。
核融合、持続可能なDCに電力を供給する可能性、巨大テックは既に投資
AIモデルの学習や運用には、DCで大量のエネルギーを使う必要がある。現時点ではエネルギーの大半は化石燃料由来だが、新たなクリーン電源を使えばAIの環境への影響を抑えられる。
例えば、核融合は巨大テックの支援を受けている。この技術では星がエネルギーを生む反応を模すことで、二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギーを安定的かつ大量に発生させようとしている。商用化につながるブレークスルーがないまま何十年も研究されている(投入量を上回るエネルギーを取り出すのは難しい)。だが、このところの資金調達の勢いと基盤技術の進歩は、この技術が新たな成熟段階に入りつつあることを示している。
核融合エネルギーは現在の核分裂による原子力発電とは違い、極めて長期にわたり環境などに影響を及ぼす放射性廃棄物を出さない。
調達額がトップクラスの核融合スタートアップの多くは、巨大テックから出資を受けたり、提携したりしている。各社の手法は様々だ。
オープンAIの創業者、サム・アルトマン氏は21年11月、核融合スタートアップ米ヘリオン・エナジー(Helion Energy)のシリーズE(調達額5億ドル)で3億7500万ドルを出資した。アルトマン氏個人としては過去最大の投資だ。さらに、マイクロソフトは23年5月、ヘリオンから28年までに核融合で発電した電気を購入することで合意した(業界で予測されている核融合発電の商用化の時期よりも早い)。
一方、グーグルのベンチャー部門GVは21年と22年に米ティーエーイー・テクノロジーズ(TAE Technologies)に、22年に米コモンウェルス・フュージョン・システムズ(Commonwealth Fusion Systems)に出資している。
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏のファミリーオフィス、ベゾス・エクスペディションズは、カナダのゼネラル・フュージョン(General Fusion)に11年のシリーズB以降、計5回出資している。
核融合は有望視されているが、まだ技術的なハードルが高く、ブレークスルーが起きたとしても拡大には何年もかかるだろう。もっとも、DCのせいでエネルギー消費量が増えている巨大テックは、この技術が成熟すればすぐに恩恵を受けられる態勢を整えている。
今後の見通し
生成AIの拡大でDCの負荷が増しており、DCを運営するより持続可能で効率的なテクノロジーの緊急性が高まっている。
巨大テックなどAIの重要な利害関係者による出資や提携は、こうした技術がどれほど早く商用化され、DCに広範な影響を及ぼせるかを左右するだろう。
一方、新たなDCを一から構築し、自ら対処している企業もある。例えば、米アルファベットから分離独立した米サイドウォーク・インフラストラクチャー・パートナーズが設立した米Verrus Dataは、AIタスクに特化した持続可能なDCの開発に取り組んでいる。26年の稼働を目指している。
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