理化学研究所の佐久間知佐子上級研究員らは蚊がヒトなどの動物の血を吸う際、血液の成分から作られる物質に反応して吸血をやめることを発見した。蚊がこの物質に反応する詳しい仕組みが分かれば、吸血行動を抑える手法の開発につながる。蚊が媒介する感染症の対策に役立つ可能性がある。
蚊はヒトのほかブタやサルなど様々な動物を刺して血を吸う。血中の特定の物質が吸血を促すことは分かっていたが、吸血を終えるタイミングを決める仕組みは不明だった。吸った血で蚊の腹が十分膨らむことで吸血をやめるとの研究報告もあったが、この仕組みに一致しない例も多かった。
研究チームは熱帯地域などにいるネッタイシマカを使って、動物の血中に吸血を抑える物質があるとみて研究を進めた。その結果、蚊は血液が固まる時にできる「フィブリノペプチドA(FPA)」という物質に反応して吸血をやめると分かった。
蚊が動物を刺してしばらくすると血液内のFPAが急増する。蚊はFPAの量をもとに、吸血開始からのおおよその時間を測っている可能性があるという。
吸血時間が長いと動物に気付かれやすくなり、追い払われたり攻撃を受けたりするリスクが高まる。FPAに反応する仕組みがあることで、十分な量の血を吸えないまま時間がたった場合にも吸血を終えるとみている。動物の種類が違ってもFPAの構造は似ているため、ヒト以外の動物を刺す際にもこの仕組みを活用できる。
マラリアやデング熱などは病原体を持つ蚊に刺されて感染するため、吸血を抑える手法を開発できれば感染症対策につながる。例えばFPAを蚊の体内で増やせれば、あまり吸血しない蚊を作り出せる可能性がある。研究チームはFPAを作る細菌を蚊の腸内に入れるといった手法を検討する。蚊の体内でFPAを捉える分子などが詳しく分かれば、蚊の吸血行動を止める物質の開発にもつながる。
東京慈恵会医科大学の嘉糠洋陸教授らとの共同研究で研究成果が21日、米科学誌セル・リポーツに掲載された。
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