理化学研究所の藤沢茂義チームリーダーらは、ラットの脳を調べ、近距離の移動先の決定に関わる神経細胞を発見した。ラットを用いた実験では、神経細胞の活動を解析して数十センチメートルの範囲で移動場所を予測できた。
研究成果をまとめた論文は米科学誌「サイエンス」に掲載された。人の場合、学校や会社から帰宅する際に、周囲の建物や道を目印に自分の現在地を把握し、適切な帰り道を選択して家に帰る。
脳には全地球測位システム(GPS)のような機能があり、主に2つの神経細胞が関わる。視覚などの情報を基に空間の座標情報を作る「格子細胞」とその情報を基に地図を作製して現在地を把握する「場所細胞」だ。
研究チームは格子細胞の中に、将来の居場所の計画に関わる「予測的格子細胞」が存在することを見いだした。この細胞はラットの周囲20〜50センチメートルの範囲で居場所の計画に関わる細胞で、神経活動を解析するとラットがこれからどこへ移動するか予測できた。
格子細胞には中距離や長距離に対応した細胞集団も存在する。研究チームは予測的格子細胞にも、より長距離の移動計画に関わる集団がいるか調べる。また、どのような情報を基に、将来の計画を立てているか脳の情報処理の仕組みの解明も目指す。
研究チームはヒトの脳にも予測的格子細胞が存在するとみている。居場所を把握する機能は「自分がどこでなにを体験したか」といった思い出を作り出す基盤となる。認知症では自分の居場所などが分からなくなる症状もあり、「居場所を計画する細胞が、記憶においてどのような役割を持つか解明したい」(藤沢氏)。
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