口をとがらせ泳ぐミナミハコフグの幼魚。目はどこでしょう=高知県大月町で、三村政司撮影

 「ナンパコワイジー」。なんだか呪文か暗号めいていますが、多くのダイバーは親しみを込め、このサカナをこう呼びます。

 正式名称を漢字とアルファベットで記すと「南箱河豚Yg」。南と箱でナンパコ、河豚はフグ、Ygはヤングで稚魚を表す学術用語。つまり、ミナミハコフグの幼魚のことです。

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 一辺1~2センチの立方体のような体形。黒い水玉模様が全身に散らばり、まるで黄金色のサイコロのようです。

 浅い岩礁の岩穴や亀裂などをちょこちょこと動き回り、こちらがじっと観察していると見つめ返してきます。目が合ってもすぐは逃げません。ゆっくりと回転して後ろを向きながら、目だけがこちらを見続けます。

 目と同じ大きさの黒点は外敵に目の位置をわからなくするため、と考えられています。「サカナじゃないよ」と何かを演じているようでもあり、不思議な外見と行動です。

 「ツン」とすました表情で、小さなヒレを細かく動かして泳ぎます。岩の表面にいる甲殻類、藻類などをおちょぼ口でついばむ様子は、まるで岩にキスしているようで、「かわいい」と大人気。ダイバーのアイドル的存在です。

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 成長するにつれ、幼魚の黒点は黒い縁取りの白や青色の斑点に変わります。かわいさも消え、ふてぶてしい顔かたちになって人気も急落。「子どものままだといいのに」という感想を持たれがちな海の生き物のひとつです。成魚は最大で40センチになります。

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 これほど愛らしい幼魚ですが、名前のとおりフグの仲間。毒を持っています。危険を感じると、皮膚から強力な粘液毒「パフトキシン」を分泌します。

 人気が高いため、水槽で飼育する愛好家もいるようですが、他のサカナとの混泳などでストレスを与えると毒を出します。限られた容量の水は全て毒に侵され、一緒に泳ぐサカナはおろか、自らも毒で死んでしまいます。

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 黒潮や台風に乗って熱帯からやってきて、西日本や南日本の近海で秋以降に見られますが、たいていは越冬できずに死んでしまいます。このようなサカナを季節来遊魚(死滅回遊魚)と呼びます。

 幼魚のころは浅いところにもいますが、成魚は熱帯域の水深50メートル程度の深場にいるとされ、水中で見かけることはほぼありません。特殊な装備を施さない一般的な潜水だと、ヒトはベテランでも水深40メートルまでしか潜ることはできないのです。

 ナンパコは、秋の短い期間だけのはかなげな姿にこそ風情があるのでしょうね。アイドルの旬は短いようです。(高知県大月町で撮影)【三村政司】

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