重い腎臓病の胎児に一時的にブタの腎臓の組織を移植する臨床研究の計画を、東京慈恵会医科大などの研究チームが4日に学内の特別委員会に提出する。動物の臓器や組織をヒトに移植する「異種移植」が実施されれば国内初となる。
臓器提供者(ドナー)の不足が問題となる中、異種移植は臓器移植の切り札として期待される。今回は期間を限って移植する「つなぎ」の異種移植だが、日本の臓器移植にとって新たな一歩となる。
研究計画書によると、腎臓が十分に形成されず尿が作れない「ポッター症候群」の重度の胎児2人を対象に実施する。出生直後の新生児への腎移植は難しく、透析ができるまでの間、一時的にブタの腎臓で補う計画だ。
まず、ブタの胎児から取り出した約2ミリメートルの腎臓の組織を、生まれる4週間前に、胎児の背中から特殊な注射器で移植する。
出産時には、ブタの腎臓に胎児の血管が入り込んで10倍程度に成長し、尿の生産が期待できるという。尿は背中にチューブを挿入して排出する。
ヒトの体内ではブタの組織は異物とみなされ、強い拒絶反応を起こす。チームは「拒絶反応が強く出るのは血管の内皮細胞だが、今回は胎児の血管が腎臓の中に入り込むので拒絶反応が抑えられる」とし、免疫抑制剤を少量にとどめる。
胎児が順調に育ち、生後2~3週間ほどになれば、移植した腎臓自体を取り除き、免疫抑制剤も中止する。その後は人工透析に切り替え、安全性などを確認しながら、腎臓移植を待つ。
チームは、①学内の特別委②手術を行う国立成育医療研究センター(東京都)の倫理委員会③厚生労働省の認定再生医療等委員会――の順に研究計画の審査を受ける。いずれも認められれば、患者を募って移植に着手する。
チームの横尾隆・慈恵医大教授(腎臓・高血圧内科)は「新生児の命をつなぐ研究を通じて、異種移植の意義を示していきたい。異種移植は動物を医療に利用するという倫理面の課題もある。市民らの理解を得られるように進めていきたい」と話した。【渡辺諒】
ポッター症候群
両方の腎臓が正常に作られず、老廃物を尿として排出できない先天性の病気の総称。胎内の羊水が少ないなどで判明し、5000~1万人に1人の割合で生まれる。最重度の場合、生まれてすぐ死亡する。腎臓が未生育のため移植が難しく、出産後に腹膜透析などの対症治療が行われるが、根本的な治療法はない。
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