鳴き鳥のホオアカアメリカムシクイ(Setophaga tigrina)とマミジロアメリカムシクイ(Leiothlypis peregrina)。写真は縄張り争いの最中だが、これらの渡り鳥は旅の途中で複雑な社会的ネットワークをつくっている可能性がある。(PHOTOGRAPH BY ROLF NUSSBAUMER/NATURE PICTURE LIBRARY)

米国では今まさに、何十億羽もの鳥たちが南の越冬地に向かって羽ばたいている。鳥の渡りは毎年恒例の出来事だが、その範囲と規模があまりに大きく、完全に理解するのは難しい。しかしこのたび、渡り鳥の生態をかつてないほどのぞき見られる最新の研究結果が発表された。

8月13日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された研究では、米国北東部と五大湖地域にある渡り鳥の中継地5カ所で集めた標識調査の記録50万点以上を分析したところ、異なる種の鳥たちが渡りの間、永続的な関係を築いていることが明らかになった。なお、こうした関係は生態学的に意味があり、気候変動などの人為的なかく乱によって脅かされる可能性があるという。

渡りの中継地では、特定の種間にひそかなつながりがあるのではないかと長く考えられてきた。今回の研究では、23年間におよぶ渡りの調査で収集された鳴き鳥50種のデータを用い、鳥類の複雑な社会的ネットワークを解明した。

鳥の渡りを研究するため、研究者はしばしば、渡りの中継地として知られている場所で、渡り鳥を網で捕獲し、番号の付いた小さなバンド(足環)を脚に装着する。こうした取り組みの一部から、鳴き鳥の社会的なつながりのヒントが浮かび上がってきた。

例えば、毎年春になると、ハゴロモムシクイ(Setophaga ruticilla)、シロオビアメリカムシクイ(Setophaga magnolia)、ワキチャアメリカムシクイ(Setophaga pensylvanica)が20〜45分の間に同じ網の同じ部分で捕獲される。

また、秋に同じ場所を訪れると、やはり同じ時間帯に同じ網で、ノドジロシトド(Zonotrichia albicollis)、ルビーキクイタダキ(Regulus calendula)、キヅタアメリカムシクイ(Setophaga coronata)が必ず捕獲される。これはすべて、これらの鳥が疲労や空腹を感じたときにばらばらに休んでいるのではなく、あるパターンに従っていることを示唆している。

「渡りのルートに沿って動物たちを追跡するのは簡単ではありません」と今回の研究に参加したエミリー・コーエン氏は話す。コーエン氏は米メリーランド大学環境科学センター(UMCES)で動物の渡りや回遊を研究している。

「しかし、実際に観察してみると、これらすべての種が共存しています。海では、同じ海流に魚類や海洋哺乳類がいて、空には、あらゆる昆虫や鳥、コウモリがいます」

「ある意味、彼らが交流していないと考える方がばかげています」

直観に反した観察結果も

今回の研究では、鳴き鳥の相互作用の質を評価しようとはしていない。単に、どの種が同時に存在するか、あるいは逆に、どの種がその場所に同時に飛来することが少ないかを追跡しているだけだ。

「私たちのデータセットでは、これらの関係がプラスのものかマイナスのものかまではわかりません」と論文の筆頭著者ジョエリー・デシモーネ氏は話す。デシモーネ氏もUMCESで動物の渡りや回遊を研究している。「鳥たちは互いを網に追い込んでいると考えることもできますし、攻撃的な関係が観察されることもあります」

しかし同時に、鳴き鳥たちは互いを回避する兆候を示すより、一緒に現れることの方がはるかに多いと判明した。実際、全50種のうち、ハゴロモムシクイとルビーキクイタダキだけが、理由は不明だが、互いを積極的に避けているように見えた。

このような社会的傾向は、特に採餌行動が重なる近縁種の場合、研究チームにとっては直観に反するものだった。「似たようなものを食べる種同士の競争が見られると予想していました」とデシモーネ氏は話す。

考えてみてほしい。数え切れないほどの鳥たちが何千キロにも及ぶ移動で疲れているのだ。「彼らは飢えた状態で、見たことのない生息地に到着します。そこでエネルギーを補給し、臓器を休ませ、脂肪を蓄え、さらに前に進むのです」とシモーネ氏は説明する。

ある鳥が別の鳥をライバル視するのであれば、競争は理にかなっている。しかし、これほど多くの種が一緒に、しかも確実に見られるのは、鳥たちの社会的ネットワークが有益ということなのかもしれない。

「また、彼らは餌を素早く見つける必要があるため、採餌行動や餌の好みがよく似たほかの鳥が存在すれば、そこが良い生息地だとわかるかもしれません」とデシモーネ氏は述べている。

研究チームは次のステップとして、鳴き鳥たちがどのようにつながっているかを解明し、気候や鳥類の動向そのものが変化している今、これらのつながりは生態系にとってどのような意味を持つかを知りたいと考えている。

「2年後も一緒」の観察事例

「この論文の本当に優れた点の一つが、非常に多くの種を対象に、大規模かつ広範な移動を調べているところです」とカナダ環境・気候変動省の野生生物学者ジャネット・ウン氏は評価している。

「個体間の社会的関係をテーマにした研究はたくさんありますが、この研究は大局的な視点から、何が起きているかを見せてくれています」

また、ウン氏はほかの鳥類グループの知られざるつながりにも思いをはせている。ウン氏は水辺に暮らすシギ・チドリ類を研究しており、今回の研究結果はその見聞きしてきた事例とも一致している。

ウン氏の同僚たちは8月、米国マサチューセッツ州の浜辺で、2羽のヒレアシトウネン(Calidris pusilla)が一緒に立っているのを目撃した。それ自体は驚くべきことではない。ヒレアシトウネンは毎年、北極圏から南米まで何千キロも移動するためだ。

ウン氏が驚いたのは、2羽の脚に付いたタグから、2年前、カナダのニューブランズウィック州で同時に捕獲され、足環を装着された2羽と判明したことだ。

「2年たって、この2羽はまた一緒にいました」とウン氏は話す。「この鳥たちはあれから渡りを2度行い、そしてまた一緒に観察されたのです」

文=Jason Bittel/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年9月21日公開)

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