北海道・支笏湖周辺のケース。赤い場所の森林炭素量が多く青は少ない(北大提供、地図を一部加工)

北海道大学の加藤知道教授らの研究チームは、森林がため込む炭素の量を10メートル四方ごとに把握できる全国地図を作った。地上と人工衛星での観測に人工知能(AI)を組み合わせ、従来比で100倍の高い解像度を実現した。

企業が環境活動に取り組む小規模な森林の炭素量を把握できる。温暖化ガスの排出量の取引など対策に生かせる。

森林の木々は二酸化炭素(CO2)を光合成のために吸収し、呼吸によって排出する。開発した高解像度の地図を使えば、吸収量から排出量を引いた「炭素蓄積量」を把握できる。

日本全体のように広域の状況を知るには人工衛星で宇宙から観測する手法があるが、解像度は100メートル四方ほどで精度に課題を抱えていた。航空機で木の高さから炭素の蓄積量をみる手法もあるが、局所の観測にとどまっていた。

日本全国の森林の炭素蓄積量を詳細に把握する

研究チームは2016〜22年に全国17カ所で航空機から測った詳細なデータをAIに学習させた。人工衛星の観測データを入力して炭素蓄積量の実態を推定する計算モデルを構築し、広域かつ高解像度で蓄積量を把握できるようにした。

地図は宇宙航空研究開発機構(JAXA)のウェブサイトで公開した。新手法で見積もった日本の森林全体の炭素蓄積量は地上の観測データを考慮しているため、米国や欧州の人工衛星データを基に計算した従来の値より正確とみられる。

CO2の排出削減を巡っては、企業が環境活動で生み出した温暖化ガスの削減量や吸収量を数値化して排出量として取引する「カーボンクレジット」の取り組みが広がりつつある。10メートル四方の精度であれば、従来は把握が困難だった植林などによる炭素蓄積量の詳細な変化が全国規模でつかめる可能性がある。

今回は、雲をすり抜けるレーダーを使って昼夜を問わずに地上を観測できるJAXAの人工衛星「だいち2号」と、光学カメラを用いる欧州の「センチネル2」のデータを採用した。今後は、別の人工衛星も使って00年までさかのぼって長期間の変化を評価し、7月に打ち上げられた「だいち4号」のデータを使って将来推計にも取り組む。

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