東京大学の松永幸大教授らの研究チームは植物の細胞に含まれる葉緑体を動物細胞に移植する技術を開発した。移植した葉緑体は少なくとも2日間は保持され、光合成の初期反応が起きることを確認した。今後は光合成で酸素や糖などができているかを検証する。
植物の光合成は細胞内にある葉緑体で起きる。光のエネルギーをもとに、酸素を作るための「電子伝達系」の反応と、二酸化炭素(CO2)から糖を合成する反応を起こす。これまで、動物細胞に葉緑体を組み込む研究はされてきたが、葉緑体がすぐに分解される課題があった。
研究チームはイタリアの火山温泉に生息する原始的な藻類「シゾン」に着目し、ハムスター由来の培養細胞に組み込む技術を開発した。従来の藻類はセ氏10〜20度ほどの水温で生息するが、シゾンは42度と高温にも耐える。培養細胞は一般的に体温に近い37度で培養するため、シゾンの葉緑体を用いた。
培養細胞を特殊な条件下で培養し、抽出した葉緑体を添加した。その結果、培養細胞は最大で45個、平均で3〜4個程度の葉緑体を細胞内に取り込ませることができた。
特殊な光を用いて葉緑体の働きを調べたところ、電子伝達系の反応が起きていることを確認した。取り込まれた葉緑体はすぐには分解されず、2日程度は機能が維持されていたという。松永教授は「機能的な葉緑体を動物細胞が保持したのは世界でも初とみられる」と説明する。
一方で、今回の研究では葉緑体を導入した動物細胞が光合成をして酸素や糖を合成したか確認できていない。少量の酸素を検知するのが難しいほか、葉緑体をより長期にわたって保持させる必要があるとし、葉緑体が壊れないように保護する仕組みの開発も進める。
動物細胞の中で、葉緑体が機能するようになれば、細胞を立体的に培養して臓器や組織を再現する「オルガノイド」の研究に役立つという。オルガノイド研究は細胞の塊の内部に酸素が届きにくくなる課題がある。葉緑体を組み込んだ動物細胞と組み合わせて培養すれば、オルガノイドを作りやすくなる可能性がある。
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