名古屋大学の阿部洋教授らは、高純度のメッセンジャーRNA(mRNA)を迅速に合成する技術を開発した。生体反応を模倣した従来の製法では製造に時間がかかっていたが、新製法は化学合成で高純度に合成できる。壊れにくく安定的な環状のmRNAも作り出せ、ワクチンや核酸医薬品などの生産技術の開発につなげる。

阿部洋・名古屋大教授らは、化学合成で高純度なmRNAを作る技術を開発した

mRNAはDNAの情報をコピーした物質で、たんぱく質を作るための設計図の役割を担う。ワクチンなどに応用され、足元では感染症だけでなく、がんワクチンや遺伝性の病気など幅広い領域への応用を目指した開発が進む。

既存の製法では元となるDNAを作り、酵素などを加えてmRNAを合成していた。細胞内の反応を模倣した仕組みだが、未完全なmRNAもできた。たんぱく質の合成量が減るほか、免疫反応を引き起こすなど副作用につながるリスクがあった。

研究チームは過去に、化学合成のみでmRNAを合成する技術と完全な構造をもったmRNAを抽出して純度を高める技術を開発している。今回は2つの技術を組み合わせ、化学合成で高純度に作り出す製法を確立した。従来の製法では一般的に製造期間が50日程度とされるが、1週間ほどに短縮し、医薬品に応用しやすい高い純度を実現した。

直鎖状だけでなく環状のmRNAを高効率に作り出す製法も開発した。環状mRNAは分解されにくく、体内に長くとどまる。一時的に効果を得たい場合は直鎖状を、遺伝性疾患など体内で長く効果を得たい場合は環状を用いるなど「mRNAの構造を使い分けた医薬品開発に貢献できる」(阿部教授)。

将来はゲノム解析などを基に個人にあったmRNA医薬品を提供する技術開発につなげる。医薬品を迅速に供給するためにはmRNAを設計する人工知能(AI)のソフトや製造の自動化技術の開発が求められる。阿部教授は「産官学の連携が不可欠だ。日本発の技術として社会実装を目指したい」と意気込む。

研究成果をまとめた論文は英科学誌「ヌクレイック・アシッズ・リサーチ」に掲載された。

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