自然科学研究機構生命創成探究センターなどの研究チームは、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドベータ(Aβ)」が線維になって脳内で成長する過程の一端を解明した。線維は伸長と一時停止をくり返して成長し、特定の抗体で伸びるのを止めることができた。新たな治療薬開発につなげる。
アルツハイマー病は認知症につながる病気の一種で、脳内にシミのような老人斑などができる。患者の脳内ではAβ分子が結合しあって「線維」となる。線維は長さを伸ばし、次第に大きな塊を作る。脳内に沈着して老人斑をつくりだすが、線維が伸びる詳しい仕組みは不明だった。
研究チームは小さな分子などの姿を捉える原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、Aβ線維が伸びる様子をリアルタイムに観察した。その結果、Aβ線維を構成する2本の「プロトフィラメント」と呼ばれる細い線維の先端が、片方ずつ交互に伸びることがわかった。
2本のプロトフィラメントの先端がそろうと伸長が一時的に止まることが分かった。同時にAβが結合すると互いに影響して伸びづらい構造に変化しているとみられる。一定の時間が経過すると再び結合できるようになる。先端がそろった状態を認識して結合する抗体を用いると、伸長が止まった状態にとどめることができた。
Aβの線維は伸長と一時停止をくり返すことが知られている。今回の実験的環境では、線維の約8割は伸びるのが止まった状態にあるという。ゆっくりと伸びる傾向があり、研究チームは同じ現象が生体内でも起きているとみている。
既存の抗体はAβ線維の横から結合するものが多く、線維が伸びるのを止めることはできない。先端に結合する抗体は珍しいとし、研究チームは今後、抗体がどのようにアミロイドベータ線維の末端に結合しているのか詳細に調べる。構造情報などから新薬につながる新たな抗体や低分子化合物の開発につなげる。
研究成果をまとめた論文は米国化学会誌「ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー」に掲載された。
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